・・・父の勘気がとけぬことが憂鬱の原因らしく、そのことにひそかに安堵するよりも気持の負担の方が大きかった。それで、柳吉がしばしばカフェへ行くと知っても、なるべく焼餅を焼かぬように心掛けた。黙って金を渡すときの気持は、人が思っているほどには平気では・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・斯う云って、彼の名をも書き加えて、Kが彼の分をも負担したのであった。 それから四十九日が済んだという翌くる日の夕方前、――丁度また例の三百が来ていて、それがまだ二三度目かだったので、例の廻り冗い不得要領な空恍けた調子で、並べ立てていた処・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・そのくらいではすまず、かなり大きな傷と負担を背負わされることがある。ことに妊娠というようなことにでもなれば、抜き差しならぬ破目に陥ることがある。これは充分警戒しなければならぬことだ。ダンサー、女給、仲居、芸者等いわゆる玄人の女性は気をつけね・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・、東京のことが気にかかり東京の様子や変遷を知り進歩に遅れまいと、これつとめるのであるが、そのうちに田舎の自分に直接関係のある生活に心をひかれ、自分自身の生活の中に這入りこんで、麦の収穫の多寡や、村税の負担の軽重に、喜んだり腹を立てたり、近隣・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・殊に、現在の、深刻な農業恐慌の下で、負担のやり場を両肩におッかぶせられて餓死しないのがむしろ不思議な農民の生活、合法無産政党を以て労農提携の問題をごま化し去ろうとする社会民主主義者共の偽まんを突破して真に階級性を持った提携に向って進んでいる・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・の一味の馬鹿らしいものを馬鹿らしいとも言えず、かえって賞讃を送らなければならぬ義務の負担である。「徒党」というものは、はたから見ると、所謂「友情」によってつながり、十把一からげ、と言っては悪いが、応援団の拍手のごとく、まことに小気味よく歩調・・・ 太宰治 「徒党について」
・・・これでは観客は全く過度の刺激の負担に堪えられなくなるのである。 巧妙な映画監督は、大写しのなんともない自然な一つの顔を、いわゆるモンタージュによって泣いている顔にも見せ、また笑っているようにも見せる。これはその顔が自然の顔でなんら概念的・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・それかと云って、もう少し気楽なところでは、卓布や食器がひどく薄汚かったり、妙に騒々しかったり、それよりも第一料理が重苦しくて、自分の胃には拠なく負担が過ぎるのである。 そういう点で、自分の六かしい要求に比較的よくはまるのが、このA町の家・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・あまりかわいそうだから、もう一匹別のを飼って過重な三毛の負担を分かたせようという説があってこれには賛成が多かった。 ある日暮れ方に庭へ出ていると台所がにぎやかになった。女や子供らの笑う声に交じって聞きなれない男の笑い声も聞こえた。「イー・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・それだけ国民全体の負担は増す勘定である。 いずれにしても今回のような大火は文化をもって誇る国家の恥辱であろうと思われる。昔の江戸でも火事の多いのが自慢の「花」ではなくて消防機関の活動が「花」であったのである。とにかくこのたびの災害を再び・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
出典:青空文庫