・・・もしも年来日本男子をしてその醜行を恣にせしめて、一方に良家婦徳の凜然たるものなからしめなば、我が社会はほとんど暗黒世界たるべきはずなるに、幸いにしてその然らざるは、これを良婦人の賜といわざるを得ず。 然るに今日において、未だ男子の奔逸を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・併し金を取るとすれば例の不徳をやらなければならん。やった所で、どうせ足りッこは無い。 ジレンマ! ジレンマ! こいつでまた幾ら苦められたか知れん。これが人生観についての苦悶を呼起した大動機になってるんだ。即ちこんな苦痛の中に住んでて、人・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・婦人の幸福は家庭にあり、家庭において婦人が婦徳を全うすることこそ日本文化の世界に誇るべき輝きであると論じ、婦人参政権運動の市川房枝女史も座談会の席上でもとの婦選運動は男性に対して行われたような点がなくはなかったが、この頃は婦人の特徴をよく理・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・「一人の人間の心をそんなに傷めるのは、何と云っても先生の不徳だと思います」 或る時、はる子はそのような話の後千鶴子に云った。「あなた本当にいい仕事をしたいとお思いんなるなら一つ暮し方を更える必要があるわね。自分がこうと思い込んだ・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・こういう看護婦というものがどんな不徳、冷血、不潔でおそろしいものであったかディッケンズの小説によく描き出されている。病院の看護婦といえば、風紀のみだれたもの、という代名詞のように思われていた。酒気を帯びないで勤務している者は一人もないという・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・「善良が不徳でないところまで、私を強くするのだ」という気持を、この作者は語ろうとしている。本多氏の短評では、「私」を出して書いているので作品として成功しがたかったと云われていたと覚えているが「私」を出したことそれ自身に問題があるのではないと・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・と云われなければ君は不徳な男である。 痛快な夢 私は喧嘩をした。負けた。蹴り落された。どこへともなく素張らしい勢いで落ち込んで行く。ハッと思うと、私の身体はまん円い物の上へどしゃりッと落ったのだ。はてな―ふわふわする。・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
・・・「虚栄を根本より覆せ」と叫ぶものは過激だとお叱りを蒙る。「不徳の人間を社会より放逐せよ」と言うと僭越だとてお目玉を頂戴する。「すべての不正を打破して社会を原始の純粋に返せ」と叫ぶ者は狂人をもって目せらる。姑息なる思想! 安逸に耽る教育者! ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫