・・・ そこで、あなた方の方でする仕事というものを見ると、普遍的即ち universal の性質を持っている。私どもの方は universal でなくて personal の性質を持っています。なお敷衍していえば、あなた方はまず公式を頭の中に・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・二百五十余年、一定不変と名けたる権力に平均を失い、その事実に顕われたるものは、この度の事件をもって始とす。(事は文久三癸亥 この事情に従て維新の際に至り、ますます下士族の権力を逞うすることあらば、或は人物を黜陟し或は禄制を変革し、なお甚・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・三千年前の項羽を以て今日の榎本氏を責るはほとんど無稽なるに似たれども、万古不変は人生の心情にして、氏が維新の朝に青雲の志を遂げて富貴得々たりといえども、時に顧みて箱館の旧を思い、当時随行部下の諸士が戦没し負傷したる惨状より、爾来家に残りし父・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ このことは各人各様に、さまざまの具体的な感銘を通して、普遍的であったに違いない。もし、そのモメントの価値を、各作家が日本の大衆の歴史的経験の一部として血肉をもって自覚し、それを表現しようと努め、しかも、それは絶対に許そうとしなかった強・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 永劫不変の真の中に、絶えずえんえんと焔を吐く太陽に向って私は、斯く叫ぶのである。 真の幹に咲く、箇人主義の花ほど偉大なるはない。実る自己完成の果実は、千万人の喉をうるおわす宙を蓄えて居る、と。・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・あの御著書全部を貫いている思想的傾向は、その普遍的な性質に於て、私共のものであるとさえ申せますでしょう。或る箇所では、宛然自分の心がそこに顕れて物語っているように感じました。其にしても、総ての感情、理智の燃焼を透し、到る所に貴女のろうたきい・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・それゆえ、殆ど、地球上全部の人間が、私は、今、新たな、もっと恒久普遍な価値を、生活の標準として見出だそうとつとめているのだと思います。一方からいうと、生活が苦るしく、疲れ、倒れるもののある位、当然であり、大きい目で見、謙譲に考えて、やむを得・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・そこには特殊であって、また普遍性をもついくつもの課題が閃いている。たとえば「後家のがんばり」というこの小説の世界にとって重要なモメントとなっている女性の生活闘争の傷痕の問題や、プロレタリア前衛党が再結集されてゆく過程及びその階級活動全般にお・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・な然し大切な一節を成す自分の運命として、四囲の関係の裡に在る我を通観する事に馴れない彼女は、自分の苦しむ苦、自分の笑う歓喜を、自分の胸一つの裡に帰納する事は出来ても、苦しむ自分、笑う自分を、自分でより普遍的な人類の前に連出して見る程、事実に・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・女性と子供とが、その社会で、どのように生きることができているか、その現実こそ、その社会の発展の程度を語る、という普遍的な真実も、性に作用する社会条件の重大さの認識に立っている。ヒューマニティーのより自然で、より美しい流露を願うならば、D・H・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
出典:青空文庫