・・・ 動物によってそれぞれに武器がちがい、従って闘争の手法がちがうのがおもしろい。虎や豹の闘法は比較的にいちばん人間に似ている。すなわち、かみつく、引っかく、振り飛ばすというのである。ところが、水牛となるとだいぶ人間とは流儀が違う。頭を低く・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・あれと似たような武器も考えられるのである。しかしまねしたくてもこれら植物の機巧はなかなかむつかしくてよくわからない。人間の知恵はこんな些細な植物にも及ばないのである。植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われるであろう。 秋になると上・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 近ごろスペインの舞姫テレジーナの舞踊を見た。これも手首の踊りであるように思われた。そうしてそのあまりに不自然に強調された手首のアクセントが自分には少し強すぎるような気もした。しかしこれがかえっていわゆる近代人の闘争趣味には合うのかもし・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・一つは自分の縄張うちへ這入って来て、似寄った武器と、同種の兵法剣術で競争をやる。元来競争となるとたいていの場合は同種同類に限るようです。同種同類でないと、本当の比較ができないからでもあるし、ひとつ、あいつを乗り越してやろうと云う時は、裏道が・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・ 南側から入って螺旋状の階段を上るとここに有名な武器陳列場がある。時々手を入れるものと見えて皆ぴかぴか光っている。日本におったとき歴史や小説で御目にかかるだけでいっこう要領を得なかったものが一々明瞭になるのははなはだ嬉しい。しかし嬉しい・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ 四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜ばった燧石の山を越えて、のっしのっしと、この森にかこまれた小さな野原にやって来ました。よくみるとみんな大きな刀もさしていたのです・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・銃後では、家庭を破壊されたすべての哀れな女性が、軍の労働者に代って武器製造をした。これがどんな人間らしくない、不幸の図絵であったかということは今日すべての男女が知っている。いまだに疎開から家族のよびもどせない良人たちは、良人であると同時に、・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 知識欲のさかんな若い人々、レーニンが云っているように向上心にもえ、階級の武器として、あらゆる知識をもちたいと思っている優秀な労働者たちが、その知識慾を餌じきにされて、きたならしい饒舌、ダイジェスト文化に、時間と金を吸いとられ、頭脳をか・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・と「舞姫」「即興詩人」などの合本になった、水泡集と云ったと思うエビ茶色のローズの厚い本。『太陽』の増刊号。これらの雑誌や本は、はじめさし絵から、子供であったわたしの生活に入って来ている。くりかえし、くりかえしさし絵を見て、これ何の絵? とい・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・そして、巴里のムーラン・ルージュの黒人の踊子のジョセフィン・ベイカアを寵愛して、ジョセフィン・ベイカアと云えば、コティの白粉を知っているぐらいの日本の人は知らない者はない世界のレビューの舞姫にした。やがてコティも運命が来て死んだ。ジョセフィ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫