・・・その表情を見るような見ないような視線のはじにうつしとって、瞬間の皮肉を感じながらゆきすぎる男女の生活は、日々の勤勉にかかわらず三千七百円ベースの底がひとたまりもなくわられつつある物価の高さによろめき、喘いでいるのだ。 こういう様相が文化・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・これに対して、物価調節、各家庭に対する節約宣伝のような、やや消極的方面の問題、また積極的には女性の自給自立、労銀等の問題から、根本に近い、社会主義上の諸問題が、惹起されます。これ等は、おもに流動する貨幣のみちびきかた、適当な配分を考究して、・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・つまり、本の内容からは何も大して期待しない、金のある人だけがこの頃は本を買い、自分たちの日常の不安からもこの世の中のことが本当に知りたいような人々はその逆に金がないという有様になって来た。物価があがる。雑誌を買っていた金は、高くなった洋服の・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ カールは物価の安いジェネバへ引越そうかと思った。しかし彼のとりかかっている「資本論」は大英博物館の図書館なしには完成しない。或る時はイギリスの鉄道局書記になろうとした。これはカールの字体が分りにくいために採用されなかった。 一八五・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・「物価暴騰時代。損をしない心得」この記事をよんで、『キング』が大衆の支持を失う日はもう見えていると強く感じた。 軍事経済政策で日用品の物価はこの五ヵ月間に三割近くあがったが、損をしないためには、「干饂飩なんかは一年分位買いため」「米・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・モラトリアムは物価との睨み合わせで、はじめて本当にものを云うのである。ところが、三月に入ってから、あらゆる物価は騰げられた。配給の米、醤油、そういう基本になる生活物資が約三倍になった。省線の二十銭区間は六十銭となり、四十銭で勤められた同じ距・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・この生活苦にあえぎ、悪税・物価高にあえぎながら、日本人の大多数がなお無条件に純然たるブルジョア政党、反民主政党を第一位に支持しているのだとすれば、その政治に対する無知と無判断なならわしは救うにかたいと悲しむにちがいない。日本の民衆が、永年の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・闇の紙で出した部数が多ければ多いほど、これだけ無理をしているのだからと、次期の割当を増している出版協会の割当方法も奇妙だし、きのうの新聞に出たように、原稿料を基準に本の定価をきめる、という物価庁の意見も腑におちない。文化現象としてよりもイン・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・軍事予算というものを、無法にどんどん出しましたから、それで、お金の値打ちが下って、物と金の釣合いがとれなくなって、物価は二十五倍に騰った。物価が騰ったから月給もあがったといって二十五倍になった月給を貰った人は一人もない。そのようにして、今度・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・これっぽちのお金しかないのに物価は高い。みな不思議なからくりで非常に猛烈な火の車でどうやらやっているのです。そんなような状態ですから、ましてお金をもっている人達の頭のよさ、それから社会に力をもっていることは猛烈なものです。ですから皆さんのお・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
出典:青空文庫