・・・学校から纏めて注文するというので僕は苹果を二本と葡萄を一本頼んでおいた。四月九日〔以下空白〕一千九百廿五年五月五日 晴まだ朝の風は冷たいけれども学校へ上り口の公園の桜は咲いた。けれどもぼくは桜の花はあんまり好・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・それに顔と云ったら、まるで熟した苹果のよう殊に眼はまん円でまっくろなのでした。一向語が通じないようなので一郎も全く困ってしまいました。「外国人だな。」「学校さ入るのだな。」みんなはがやがやがやがや云いました。ところが五年生の嘉助がいきな・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・もうマジエル様と呼ぶ烏の北斗七星が、大きく近くなって、その一つの星のなかに生えている青じろい苹果の木さえ、ありありと見えるころ、どうしたわけか二人とも、急にはねが石のようにこわばって、まっさかさまに落ちかかりました。マジエル様と叫びながら愕・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・曹長特務曹長「大将ひとりでどこかの並木の苹果を叩いているかもしれない大将いまごろどこかのはたけで人蔘ガリガリ 噛んでるぞ。」右隊入場、著しく疲れ辛うじて歩行す。曹長「七・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、その中にはたくさんの旅人が、苹果を剥いたり、わらったり、いろいろな風にしていると考えますと、ジョバンニは、もう何とも云えずかなしくなって、また眼をそらに挙げました。 あああの白いそらの帯がみんな星・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・雪狼のうしろから白熊の毛皮の三角帽子をあみだにかぶり、顔を苹果のようにかがやかしながら、雪童子がゆっくり歩いて来ました。 雪狼どもは頭をふってくるりとまわり、またまっ赤な舌を吐いて走りました。「カシオピイア、 もう水仙が咲き出す・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・けらいは皆「陛下よ、それはとても出来ないことでございます」と答えました。ところがこの河岸の群の中にビンズマティーと云う一人のいやしい職業の女がおりました。大王の問をみんなが口々に相伝えて云っているのをきいて「わたくしは自分の肉を売っ・・・ 宮沢賢治 「手紙 二」
・・・なぜならどんなこどもでも、また、はたけではたらいているひとでも、汽車の中で苹果をたべているひとでも、また歌う鳥や歌わない鳥、青や黒やのあらゆる魚、あらゆるけものも、あらゆる虫も、みんな、みんな、むかしからのおたがいのきょうだいなのだから。チ・・・ 宮沢賢治 「手紙 四」
・・・太陽はまるで熟した苹果のようでそこらも無暗に赤かった。「ずいぶんいやな天気になった。それにしてもこの太陽はあんまり赤い。きっとどこかの火山が爆発をやった。その細かな火山灰が正しく上層の気流に混じて地球を包囲しているな。けれどもそ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・それから人の子供の苹果の頬をかがやかします」 そしてみんながいっしょに叫びました。「十力の金剛石は今日も来ない。 その十力の金剛石はまだ降らない。 おお、あめつちを充てる十力のめぐみ われらに下れ」 ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
出典:青空文庫