・・・即ち居家の道徳なれども、人間生々の約束は一家族に止まらず、子々孫々次第に繁殖すれば、その起源は一対の夫婦に出るといえども、幾百千年を経るの間には遂に一国一社会を成すに至るべし。既に社会を成すときは、朋友の関係あり、老少の関係あり、また社会の・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 和歌は万葉以来、新古今以来、一時代を経るごとに一段の堕落をなしたるもの、真淵出でわずかにこれを挽回したり。真淵歿せしは蕪村五十四歳の時、ほぼその時を同じゅうしたれば、和歌にして取るべくは蕪村はこれを取るに躊躇せざりしならん。されど蕪村・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・それについてつくづくと考えて見るにわれわれの俳句の標準は年月を経るに従っていよいよ一致する点もあるが、またいよいよ遠ざかって行く点もある。むしろその一致して行く処は今日までにほぼ一致してしもうて、今日以後はだんだんに遠ざかって行く方の傾向が・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・環のまん中に名高い、ヘルマン大佐がいるんだ。人間じゃないよ。僕たちの方のだよ。ヘルマン大佐はまっすぐに立って腕を組んでじろじろあたりをめぐっているものを見ているねえ、そして僕たちの眼の色で卑怯だったものをすぐ見わけるんだ。そして『こら、・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・そのうち動物を食べないじゃ食料が半分に減る。いかにもご尤なお考ではありますが大分乱暴な処もある様であります。動物と植物と半々だ、これがまずいけません。半々というのは何が半々ですか。多分は目方でお測りになるおつもりか知れませんが目方で比較なさ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・開いた輝のない眼、青白い頬、力ない唇、苦しさに細い育ちきれない素なおな胸が荒く波立って、或る偉大なものに身も心もなげ出した様に絶望的な妹の顔を一目見た時――おおあの時の恐ろしさ、悲しさ、いかほど年月を経るとも、私に生のあるかぎりは必ずあの顔・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・よって、いよいよ勤労生活に安定が保障されているような社会ならば、したがって、太い潮が細々とした流れを吸いあげてしまうような金づまりだの、手にもっている御飯の茶碗をはたき落されるような馘首がおこる原因も減ることは明白である。 失業の不安で・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・それどころかコンムーナへ新規に入って来る者なんぞは一月に二三キロも目方が減るぐれえなもんだ。これでよく分る、『ブルスキー』へどんな連中がより集まったか。懶けもんだ! 天からマンナが降るのを待ってるみてえだ。ブルスキーの連中は自分で云っている・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・りでは、良人と妻とは七つ八つ年が違うのが普通だから、その年ごろの妻たちは大体四十前位の良人をもっているわけで、男の人たちの社会へ向う心持、事業に向う心持、異性に向う心持は、やはり四十歳ごろ一つの変転を経るのが一般らしい。三十三が女の大厄と昔・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・ 戸主ということになると四百万票減るのだそうである。 日本の社会の習俗のなかで、女の戸主というものは実に複雑な立場を経験していると思う。友達のなかに三人ほど戸主である女性があって、そのひとたちの生活もいりくんだものとなっている。・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
出典:青空文庫