・・・その腸を二升瓶に貯える、生葱を刻んで捏ね、七色唐辛子を掻交ぜ、掻交ぜ、片襷で練上げた、東海の鯤鯨をも吸寄すべき、恐るべき、どろどろの膏薬の、おはぐろ溝へ、黄袋の唾をしたような異味を、べろりべろり、と嘗めては、ちびりと飲む。塩辛いきれの熟柿の・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ いくち、しめじ、合羽、坊主、熊茸、猪茸、虚無僧茸、のんべろ茸、生える、殖える。蒸上り、抽出る。……地蔵が化けて月のむら雨に托鉢をめさるるごとく、影朧に、のほのほと並んだ時は、陰気が、緋の毛氈の座を圧して、金銀のひらめく扇子の、秋草の、・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・と、火食せぬ奴の歯の白さ、べろんと舌の赤い事。「茸だと……これ、白痴。聞くものはないが、あまり不便じゃ。氏神様のお尋ねだと思え。茸が婦人か、おのれの目には。」「紅茸と言うだあね、薄紅うて、白うて、美い綺麗な婦人よ。あれ、知らっしゃん・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・東京訛が抜けなかったために「他国もんのべろしゃ/\」だと云っていじめられた。そうして、墨をよこさなければ帰りに待伏せすると威かされ、小刀をくれないとしでるぞと云っては脅かされた。その頃の硬派の首領株の一人はその後人力車夫になったと聞いたが、・・・ 寺田寅彦 「鷹を貰い損なった話」
・・・ それはたとえば私どもの方で、ねこやなぎの花芽をべんべろと言いますが、そのべんべろがなんのことかわかったようなわからないような気がするのと全くおなじです。とにかくべんべろという語のひびきの中に、あの柳の花芽の銀びろうどのこころもち、なめ・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・と言いながらすぐポケットの手を馬の鼻づらへのばしましたが、馬が首をのばして舌をべろりと出すと、さっと顔いろを変えてすばやくまた手をポケットへ入れてしまいました。「わあい、又三郎馬おっかながるぢゃい。」悦治がまた言いました。すると三郎はす・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・さあさあ団子たべろ。食べろ。な。今こっちを焼ぐがらな。全体何処まで行ってだった。」「笹長根の下り口だ。」と兄が答えました。「危ぃがった。危ぃがった。向うさ降りだらそれっ切りだったぞ。さあ達二。団子喰べろ。ふん。まるっきり馬こみだぃに・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
出典:青空文庫