・・・兼ねて求馬と取換した起請文の面を反故にするのが、いかにも彼にはつらく思われた。のみならず朋輩たちに、後指をさされはしないかと云う、懸念も満更ないではなかった。が、それにも増して堪え難かったのは、念友の求馬を唯一人甚太夫に託すと云う事であった・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 僕は一週間ばかりたった後、この国の法律の定めるところにより、「特別保護住民」としてチャックの隣に住むことになりました。僕の家は小さい割にいかにも瀟洒とできあがっていました。もちろんこの国の文明は我々人間の国の文明――少なくとも日本の文・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 閣下、こう云う事情の下にある私にとっては、閣下の御保護に依頼するのが、最後の、そうしてまた唯一の活路でございます。どうか私の申上げた事を御信じ下さい。そうして、残酷な世間の迫害に苦しんでいる、私たち夫妻に御同情下さい。私の同僚の一人は・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・花田 俺たちは力を協せて、九頭竜という悪ブローカーおよび堂脇という似而非美術保護者の金嚢から能うかぎりの罰金を支払わせることを誓う。一同 誓う。花田 そのためには日ごろの馬鹿正直をなげうって、巧みに権謀術数を用うることを誓・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・けだしその論理は我々の父兄の手にある間はその国家を保護し、発達さする最重要の武器なるにかかわらず、一度我々青年の手に移されるに及んで、まったく何人も予期しなかった結論に到達しているのである。「国家は強大でなければならぬ。我々はそれを阻害すべ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・その上に琉球唐紙のような下等の紙を用い、興に乗ずれば塵紙にでも浅草紙にでも反古の裏にでも竹の皮にでも折の蓋にでも何にでも描いた。泥絵具は絹や鳥の子にはかえって調和しないで、悪紙粗材の方がかえって泥絵具の妙味を発揮した。 この泥画について・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・そういう道学的小説観は今日ではもはや問題にならないが、為永春水輩でさえが貞操や家庭の団欒の教師を保護色とした時代に、馬琴ともあるものがただの浮浪生活を描いたのでは少なくも愛読者たる士君子に対して申訳が立たないから、勲功記を加えて以て完璧たら・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・そうすると翌朝彼の起きない前に下女がやってきて、家の主人が起きる前にストーブに火をたきつけようと思って、ご承知のとおり西洋では紙をコッパの代りに用いてクベますから、何か好い反古はないかと思って調べたところが机の前に書いたものがだいぶひろがっ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・どっちにしても、旧紙幣だから、反古同然だ」「どうしてまたこんな所へ入れて忘れたんだ」「前の細君が生きてた頃に入れたのだから、忘れる筈だよ、実はあの頃、まだ競馬があったろう」「うん、ズボラ者の君が競馬だけは感心に通ったね」「そ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・想い出した、多分太沽沖にあるわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀なるある海軍中佐の語るには、 わが艦隊が明治二十七年の天長節を祝したのは、あたかも陸兵の華園口上陸を保護するため、ベカ島の陰に集合していた時・・・ 国木田独歩 「遺言」
出典:青空文庫