・・・ 奴は出る杭を打つ手つき、ポンポンと天窓をたたいて、「しまった! 姉さん、何も秘すというわけじゃねえだよ。 こんの兄哥もそういうし、乗組んだ理右衛門徒えも、姉さんには内証にしておけ、話すと恐怖がるッていうからよ。」「だから、・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・お雛様を飾った時、……五人囃子を、毬にくッつけて、ぽんぽんぽん、ころん、くるくるなんだもの。 ところがね、真夜中さ。いいえ、二人はお座敷へ行っている……こっちはお茶がちだから、お節句だというのに、三人のいつもの部屋で寝ました処、枕許が賑・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ と甘谷は前掛をポンポンと敲いて、「お千さんは大将のあすこン処へ落ッこちたんだ。」「あら、随分……酷いじゃありませんか、甘谷さん、余りだよ。」 何にも知らない宗吉にも、この間違は直ぐ分った、汚いに相違ない。「いやあ、これ・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ どうも、この鼻尖で、ポンポンは穏でない。 仕方なしに、笑って見せて、悄々と座敷へ戻って、「あきらめろ。」 で、所在なさに、金屏風の前へ畏って、吸子に銀瓶の湯を注いで、茶でも一杯と思った時、あの小児にしてはと思う、大な跫足が・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・父は奥座敷でぽんぽん煙草を吸って母と話をしている。おとよは気が引けるわけもないけれども、今日はまた何といわれるのかと思うと胸がどきまぎして朝飯につく気にもならない、手水をつかい着物を着替えて、そのままお千代が蚕籠を洗ってる所へ行こうとすると・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・お千代が、ポンポンと手を叩く、省作は振り返って出てくる。「省さん、暢気なふうをして何をそんなに見てるのさ」「何さ立派なお堂があんまり荒れてるから」「まあ暢気な人ねい、二人がさっきからここへきてるのに、ぼんやりして寺なんか見ていて・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・この満場爪も立たない聴衆の前で椿岳は厳乎らしくピヤノの椅子に腰を掛け、無茶苦茶に鍵盤を叩いてポンポン鳴らした。何しろ洋楽といえば少数の文明開化人が横浜で赤隊の喇叭を聞いたばかりの時代であったから、満場は面喰って眼を白黒しながら聴かされて煙に・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・「まだポンポン打ちよるぞ!」 ロシア人は、戦争をする意志を失っていた。彼等は銃をさげて、危険のない方へ逃げていた。 弾丸がシュッ、シュッ! と彼等が行くさきへ執念くつきまとって流れて来た。「くたびれた。」「休戦を申込む方・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ この教員室の空気の中で、広岡先生は由緒のありそうな古い彫のある銀煙管の音をポンポン響かせた。高瀬は癖のように肩を動って、甘そうに煙草を燻して、楼階を降りては生徒を教えに行った。 ある日、高瀬は受持の授業を終って、学士の教室の側を通・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・おまえとわかれて、たちどころに私は、チョッキのボタンを全部、むしり取ってしまって、それから煙草の吸殻を、かたっぱしから、ぽんぽんコーヒー茶碗にほうりこんでやった。あれは、愉快だった。実に、痛快であった。ひとりで、涙の出るほど、大笑いした。私・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫