・・・プドーフキンは爆発の光景を現わすのに本物のダイナマイトの爆発を撮ってみたがいっこうにすごみも何もないので、試みにひどく黒煙を出す炬火やら、マグネシウムの閃光やを取り交ぜ、おまけに爆発とはなんの縁もない、有り合わせの河流の映像を插入してみたら・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・その後には二枚折の屏風に、今は大方故人となった役者や芸人の改名披露やおさらいの摺物を張った中に、田之助半四郎なぞの死絵二、三枚をも交ぜてある。彼が殊更に、この薄暗い妾宅をなつかしく思うのは、風鈴の音凉しき夏の夕よりも、虫の音冴ゆる夜長よりも・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ 嘴の色を見ると紫を薄く混ぜた紅のようである。その紅がしだいに流れて、粟をつつく口尖の辺は白い。象牙を半透明にした白さである。この嘴が粟の中へ這入る時は非常に早い。左右に振り蒔く粟の珠も非常に軽そうだ。文鳥は身を逆さまにしないばかりに尖・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・西洋では煙管に好みを有って、大小長短色々取り交ぜた一組を綺麗に暖炉の上などに並べて愉快がる人がある。単に蒐集狂という点から見れば、此煙管を飾る人も、盃を寄せる人も、瓢箪を溜める人も、皆同じ興味に駆られるので、同種類のもののうちで、素人に分ら・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・その上、猫入らずまで混ぜてあったのだが、兎に角私は、滅茶苦茶に甘いものに飢えていた。 だものだから、ついうっかり、奴さんの云う事を飲み込もうとした。 涎でも垂らすように、私の眼は涙を催しかけた。「馬鹿野郎!」 私は、力一杯怒・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・ 錆のとれた後は、一人の水夫が、コールターと、セメントの混ぜ合せたのを塗って歩いた。 だが、何のために、デッキに手入れをするか? デッキに手入れをするか? よりも、第三金時丸に最も大切なことは、そのサイドを修理することではなかっ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・文章は、上巻の方は、三馬、風来、全交、饗庭さんなぞがごちゃ混ぜになってる。中巻は最早日本人を離れて、西洋文を取って来た。つまり西洋文を輸入しようという考えからで、先ずドストエフスキー、ガンチャロフ等を学び、主にドストエフスキーの書方に傾いた・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・己と身の周囲の物とが一しょに織り交ぜられた事は無い。周囲の物に心を委ねて我を忘れた事は無い。果ては人と人とが物を受け取ったり、物を遣ったりしているのに、己はそれを余所に見て、唖や聾のような心でいたのだ。己はついぞ可哀らしい唇から誠の生命の酒・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・余は再び手真似を交ぜて解剖的の説明を試みた所が、女主人は突然と、ああサンゴミか、というた。それならば内の裏にもあるから行って見ろというので、余は台所のような処を通り抜けて裏まで出て見ると、一間半ばかりの苗代茱萸が累々としてなって居った。これ・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・むしろ貧相の方であって、六十年来持ち来ったつぎまぜの財布を孫娘の嫁入に譲ってやる方だ。して見ると福の神はこんな皺くちゃ婆さんを嫌うのであろうか。あるいは福の神はこの婆さんの内の門口まで行くのであるけれど、婆さんの方で、福なんかいらないという・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
出典:青空文庫