・・・きよは、やさしいお嬢さんのことを、国の妹に書いて送る中へと思って、散った、真っ赤なけしの花弁を拾ったのであります。 風に葉が光って、ひらひらとちょうちょうが飛んでいました。 小川未明 「気にいらない鉛筆」
・・・その地平線から抜け上がったように真っ赤な船が浮いていて、黒い旗がひらひらと二本のほばしらの上にひるがえっていました。「昨夜は怖ろしい海鳴りがしたから、なにか変わったことがなければいいと思った。」と、老人がいっていました。「よくこ・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
・・・その子のそばには、真っ赤に塗った二輪車が、置いてありました。正吉くんは、知らない子のうしろに乗って、肩につかまると、風を切って、風のように、その自転車は走りました。いくつかの、まだ見たことのない森や、まだ知らない道を通って、やはり原っぱの中・・・ 小川未明 「少年と秋の日」
・・・ところどころにある、つたうるしが真っ赤になっていました。なんの鳥か、人の話し声と足音に驚いて、こちらの岸から、飛びたって、かなたの岸のしげみに隠れた。彼は、先生と別れてから、独り峠の上に立ちました。まだそこだけは明るく、あわただしく松林の頭・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・ そして、二人が、自転車で走る後から、吉坊は、真っ赤な顔をして、自転車を追っかけたのであります。 ちょうど、この有り様を、外からもどってきた吉坊の父親が、見たのでした。彼は、このいじらしいようすが、腹立たしくもありました。そして、に・・・ 小川未明 「父親と自転車」
・・・すると、見るまに白く光っていた鋼鉄のレールは真っ赤にさびたように見えたのでありました……。 またある繁華な雑沓をきわめた都会をケーが歩いていましたときに、むこうから走ってきた自動車が、危うく殺すばかりに一人のでっち小僧をはねとばして、ふ・・・ 小川未明 「眠い町」
・・・山田は真っ赤な顔をして、先生に引きずられるようにして、連れてゆかれたけれど、小野は柱につかまって、動きませんでした。先生は、小野のわきの下をこそぐりました。 それでも、我慢をして、はなれまいと柱にしがみついたのです。お席から、くすくす笑・・・ 小川未明 「政ちゃんと赤いりんご」
・・・ このとき、夏の日は暮れかかって、海の上が彩られ、空は、昨日のように真っ赤に燃えて見られました。 小川未明 「港に着いた黒んぼ」
・・・』と言って腹の真っ赤な山やまばえの尺にも近いのを差し上げて見せた。そして自慢そうに、うれしそうに笑った。『上田、自慢するなッ』と一人の少年が叫んだ。 豊吉はつッと立ち上がって、上田と呼ばれた少年の方を向いて眉に皺を寄せて目を細くして・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・白い衣にマッカのルビーのブローチをして、水色のバンドをしめた女は若い詩人の頬に頬をよせて小さいふるえた声でささやくように云いました。女「美くしい私の心の人、貴方は□□(と云う事を知っておいで」年若い人の頬にはほんのりと血がさしていつもよ・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫