・・・私は、まんまと、かつがれたわけであるが、けれども私には、この友人の無邪気な冗談を心から笑う事は出来なかった。何だか、ひやりとしたのである。もう一尺、高かったなら! 実に危いところだと思ったのである。 私は高等学校一年生の時に、早くもお洒・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・しかし、私はまんまと裏切られたのである。テツさんと妻は、お互に貴婦人のようなお辞儀を無言で取り交しただけであった。私は、まのわるい思いがして、なんの符号であろうか客車の横腹へしろいペンキで小さく書かれてあるスハフ 134273 という文字の・・・ 太宰治 「列車」
・・・はやしたてて居る見世物、目のさめる様な店飾りにイルミネーション、立派な装で自動車を飛ばせて行く人、ぴかぴかに光った頭の婦人、その他あれやこれや、只もうにぎやかなパッとしたむく鳥おどしに仕掛けてある事にまんまとおどされて、刺激の少ない処に居て・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫