・・・感想は未完でありますから山本氏の云われる事は結論まで明かではありませんけれども、私ども常識を持った一読者として「女の一生」をみた場合、作者は検事があの作品から引き出して来られたような形で母性を讚えたのではなくて、そのような自然な母の愛が此の・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・正月に、漁師たちが大焚火でもしてあたりながら食べたのだろう、蜜柑の皮が乾からびて沢山一ところに散らかっているのが砂の上に見えた。砂とコンクリートのぬくもりが着物を徹していい心持にしみとおして来る。「いい気持!」「お母ちゃまもいらっし・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ 若い女性たちのあいだに見られたそういういいあらわしかたの本心については疑問が抱かれて、当時流行のジイドの「未完の告白」のジュヌヴィエヴの模倣も大分あるというふうに判断されていた。「未完の告白」は、知られているとおり、十六歳の学問好・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・健康悪化してこの伝記は未完のまま終っている。 八月十日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 八月十日午後五時半。夕立があがって心持よい夕方。蝉がオーシイツクツク、オシオスと鳴いています。御気分はいかがですか。私は毎日・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 伊豆蜜柑を買おうと八百屋へ行った。雨戸を一枚だけ明けた乾物臭い暗い奥から、汚れた筒っぽ袢纏を着た女房が首を出した。 なるほど天城街道は歩くによい道だ。右は冬枯れの喬木に埋った深い谷。小さい告知板がところどころに建っていて、第×・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・ 逸見氏の文章を、私は様々のことを思いながら、読んだ。未完であったその「追憶」はつづけて四月十一日の『大学新聞』にのった。筆者はたっぷり、いい気持に、一種調子の高いジェスチュアをも加えて文章を進めているのであった。「マルクス主義は論壇で・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・ この考えは、未だ考えとしても発育未完なものです。まして、容易に実行され得ることではありません。 けれども、私共に、只注入された知識としてのみ、よりあるべき内容の人生の可能を知っていればよいのでしょうか。 土台をかためる、一つの・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・を書き、未完だが、やはり唯物弁証法的方法の点で失敗している。筆者は、ソヴェト同盟の大建設が世界プロレタリアート・農民にとってどんな意義をもつものかを書くのに、目的の大衆性に適応した物語りの形式を選ばず、小説の形で、信吉という人物を、主題に対・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・「未完の告白」を作者はジュネヴィエヴの人間性のどのような発展において大きい社会的意義のある彼女の抗議を完結させるのであろうか。〔一九三七年一月〕 宮本百合子 「未開の花」
・・・という題で、かなり長い未完のものがでてきたので、私はふっと、可愛らしい思い出を誘われた。それはこうである。私が源氏物語を読んだのは、与謝野さんの訳でではあったが、あの絢爛な王朝文学の、一種違った世界の物語りや、優に艷めかしい插画などが、子供・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
出典:青空文庫