・・・ 社会の風教を乱すような邪教淫祠、いかがわしい医療方法や薬剤、科学の仮面をかぶった非科学的無価値の発明や発見、そういうものに世人の多くが迷わされて深入りしない前にそれらの真価を探求したい。官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 人或は言わん、右に論ずる所、道理は則ち道理なれども、一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱するものにして遽に賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。其波瀾を掛念と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・たとえば今日こそ農業々々といえども、三、五年の中には農よりも商の欠点の見出すことのあるべきが如し。実に政治は臨機応変の活動にして、到底、教育の如き緩慢なるものと歩をともにすべき限りに非ず。もしも強いてこれを一途に出でしめ、今年今月の政治の方・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・どちらへ向いて見ても活路を見出すことが出来ません。わたくしはとうとう夢に向って走りました。ちょうど生埋めにせられた人が光明を求め空気を求めると同じ事でございます。 わたくしは突然今の夫を棄てて、パリイへ出て、昔あなたのおいでになる日の午・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・というのは私たちは式場の神聖を乱すまいと思ってできるだけこらえていたのでしたがあんまり博士の議論が面白いのでしまいにはとうとうこらえ切れなくなったのでした。一番前列に居た小さな信者が立ちあがって祭司次長に何か云いました。次長は大きくうなずき・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして、まごころをもって芸術を愛し、人間の創造力に価値を見出すものであるなら、謂わば芸術至上の現実的過程としてさえも、ブルジョア社会の文学は自身の発展のために社会主義への方向をとるしかないことを確信するようになった。 ロシアの革命の歴史・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ 幾百年の過去から、恐ろしい伝統、宿命を脱し切れずにいる、所謂為政者等は、彼等の人間的真情の枯渇に、何かの弁明を見出すかもしれない。けれども、私共、平の人間、真心を以て人間の生活、真の人生と云うものを掴握しようとする者が、互に生きている・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ 次の時代に役立つどんな生活の新しき拠りどころを見出すであろうか? 有産階級から出たアンネットは、その思想の母体がブルジョアであるアナーキスティックな思想に止るであろうか――これは、作家がそこに止ることを同時に意味するが――更にどの方向・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・治安を守る人よりもあるときにおいて極端に治安を乱す人である。 そういうふうなことを、私どもの常識は平和とか基本的人権とかいうことの現実と結びつけて、直ぐピンと感じるような感覚を十分もっていないということが、問題だと思います。たとえば、浦・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・此処からは、何処にも私の懐しい自然全景を見出すことは出来ない。視覚の束縛のみではない。心がつき当る。東を向いても、西を向いても。豊かに律を感じて拡がろうとする魂が、彼方此方で遮られて、哀れな戸惑いをする。ああ、野原、野原。私の慾しいものは、・・・ 宮本百合子 「餌」
出典:青空文庫