・・・夢を見ているように美しい、ハムレット太子の故郷、ヘルジンギヨオルから、スウェエデンの海岸まで、さっぱりした、住心地の好さそうな田舎家が、帯のように続いていて、それが田畑の緑に埋もれて、夢を見るように、海に覗いている。雨を催している日の空気は・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
保険会社の役人テオドル・フィンクは汽車でウィインからリヴィエラへ立った。途中で旅行案内を調べて見ると、ヴェロナへ夜中に着いて、接続汽車を二時間待たなくてはならないということが分かった。一体気分が好くないのだから、こんなことを見付けて見・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・どんな珍しいものを見るかと思って……段々海へ乗出して往く中には、為朝なんかのように、海賊を平らげたり、虜になってるお姫さまを助けるような事があるかも知れませんからね。それから、ロビンソン、クルーソーみたように難船に逢って一人ッきり、人跡の絶・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・我々はそれによっていわゆる未開人をいかに見るべきかを教えられる。フロベニウス自身が指摘しているように、人類の文化の統一は、ただこのような理解を通じてのみ望み得られるのである。 自分はこの書を読み始めた時に、巻頭においてまず強い激動を受け・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・次の一艘が磯波に乗り掛かると、ちょうど綱を荒れ回る鹿の角に投げ掛けるように、若者は舟へ綱を投げる。そして他の若者たちは躍り掛かって、肩をあてて一気に舟を引き上げる。こうして次から次へと数十艘の舟が陸へ上げられるのである。陸上の人数はますます・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫