・・・辿着きは着いたが、さて新鮮の空気を呼吸し得たは束の間、尤も形の徐々壊出した死骸を六歩と離れぬ所で新鮮の空気の沙汰も可笑しいかも知れぬが――束の間で、風が変って今度は正面に此方へ吹付ける、その臭さに胸がむかつく。空の胃袋は痙攣を起したように引・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・が多いので、胸がむかつく。墨絵の美しさがわからなければ、高尚な芸術を解していないということだ、とでも思っているのであろうか。光琳の極彩色は、高尚な芸術でないと思っているのであろうか。渡辺崋山の絵だって、すべてこれ優しいサーヴィスではないか。・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 脚が重い、けだるい、胸がむかつく。大石橋から十里、二日の路、夜露、悪寒、確かに持病の脚気が昂進したのだ。流行腸胃熱は治ったが、急性の脚気が襲ってきたのだ。脚気衝心の恐ろしいことを自覚してかれは戦慄した。どうしても免れることができぬのか・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・妙にがさがさな声を出したりいやに光る眼をもって居たり、あれを見ると私はむかつく様になってしまいます。ほんとうに何ていやな見っともない事なんでしょう。それが女はどうでしょう。 皮膚はうるおいが出て来て、くびがきれいに見える様になりましょう・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・而も、こうやって、制し難くこみあげて来る苛立たしいような、腹立たしいような、泣くに泣かれずむかつく激情は何だろう。 私は、彼の上に泣き倒れられない自分を腹の底から憎む。その自己嫌悪を追いつめてゆくと、恐ろしいことだが、彼にも深い憎しみを・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
出典:青空文庫