・・・計略を敵に見すかされてむざむざと討ち死にしたかな。いったい計略計略って花田の奴はなにをする気なんだろう。沢本 おい、ともちゃん……乗るんだ。君は俺たちのモデルじゃないか。若様も描けよ。瀬古 うん描こう。いったい計画計画って……お・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 小宮山は切歯をなして、我赤樫を割って八角に削りなし、鉄の輪十六を嵌めたる棒を携え、彦四郎定宗の刀を帯びず、三池の伝太光世が差添を前半に手挟まずといえども、男子だ、しかも江戸ッ児だ、一旦請合った女をむざむざ魔に取られてなるものかと、追駈け・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ それに、貧相な面ながら、けいけいたる光を放っているあの眼、ただ世渡りをする男ではないと、おれには興味ふかい眼付きだった。むざむざ見捨てるには惜しい男だと、見込んだのだ。ちっぽけな怒りはすべて忘れて……。 昔、政党がさかんだった頃、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そんなことで、むざむざ命を捨てるお人よしがどこにいよう。」とディオニシアスは笑いました。 すると、そこへデイモンという人がすかさず出て来ました。「どうぞ私をピシアスの代りにおとめおき下さい。もし、ピシアスがあなたを欺いて、御指定の日・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・そうして、その上にその平面の中のある特別な長方形の部分だけを切り抜いて、残る全部の大千世界を惜しげもなくむざむざと捨ててしまうのである。実に乱暴にぜいたくな目である。それだけに、なろう事ならその限られた長方形の中に、切り捨てた世界をもいっし・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・せっかくはえたものをむざむざむしり取るのが惜しいと思われた。旧城趾やその他の荒れ地に勢いよく茂った雑草は見るから気持ちがよかった。そういう所にねころんで鳥の歌、蜂のうなりを聞くのは愉快であった。油絵の風景画などでも、破れた木柵、果樹などの前・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ 高等小学上級生、中学初級生が、予科練へ送りこまれて行ったあの列伍の姿を忘れることが出来ず、彼等をむざむざ殺した者たちのきょうの安泰について許すことが出来にくい。生命の否定・人格無視・人種間の偏見を根幹とした軍事権力の支配とその教育のも・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・しポーンとけってから丁稚のおもちゃにやっちまうさんざんけられてでこぼこになって中味の出た時にかまどの地獄になげられる、……だるまと生れたかなしさに逃げ出そうにも足はなしむざむざひどい目に合って死んで行くの・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫