・・・たとい鼻ひくでも、めっかちでも……」 もうすわっていられなかった。鉈をとって、つくりかけのひしゃくを二つ三つ、つづけざまにぶちわると、三吉はおもてへとびだしてしまった。 ――こんなとき、以前の三吉は、小野か津田をたずねていったが、い・・・ 徳永直 「白い道」
・・・何と云うばった御方じゃあろう千両箱がふえます様倉が沢山たちますよう着物が沢山出来ますようとくいが段々ましますようおじさんのねがいはこればかり何と云うばった御方だろう めっかちだるまさんの口小言 棚の上・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 何か考えて居ると見えて、薄い髭の罪のなく生えた口元をゆるめてニヤツイて居た弟は、「めっかちになったんじゃ困るやね。 あのね、今先(ぐ家へ行って、庭中さがして御覧、 きっと、その眼玉がおっこって居るから。 それをよく・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・の様なものの上に、水銀のはげた鏡と、栂のとき櫛の、歯の所々かけたのがめっかちのお婆さんの様にみっともなく、きたなくころがって居る。 壁に張った絵紙を大方はその色さえ見分けのつかないほどにくすぶって仕舞って居て、片方ほか閉めてない戸棚から・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・娘がめっかちになって自分の前に出て来ても、ウンそうかと言って平気でいられるようになりたい、という言葉の奥には、熱し過ぎた親の愛が渦巻いているのである。 超脱の要求は現実よりの逃避ではなくて現実の征服を目ざしている。現実の外に夢を築こうと・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫