・・・ 真赤なリボンの幾つかが燃える。 娘の一人が口に銜んでいる丹波酸漿を膨らませて出して、泉の真中に投げた。 凸面をなして、盛り上げたようになっている水の上に投げた。 酸漿は二三度くるくると廻って、井桁の外へ流れ落ちた。「あ・・・ 森鴎外 「杯」
・・・ ―――――――――――― 水が温み、草が萌えるころになった。あすからは外の為事が始まるという日に、二郎が邸を見廻るついでに、三の木戸の小屋に来た。「どうじゃな。あす為事に出られるかな。大勢の人のうちには病気でおるも・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ ツァウォツキイは薔薇色の火の中から、赤い燃える火の中へ往った。そこで永遠に烹られて、痛がって、吠えているのだろう。 ツァウォツキイの話はこれでしまいだ。 話が代って娑婆の事になる。娘は部屋に帰って母に話した。「おっ母さん。あの・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫