・・・印半纏の威勢のいいのでなく、田船を漕ぐお百姓らしい、もっさりとした布子のなりだけれども、船大工かも知れない、カーンカーンと打つ鎚が、一面の湖の北の天なる、雪の山の頂に響いて、その間々に、「これは三保の松原に、伯良と申す漁夫にて候。万・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・彼女たち――すなわち、此の界隈で働く女たち、丸髷の仲居、パアマネント・ウエーヴをした職業婦人、もっさりした洋髪の娼妓、こっぽりをはいた半玉、そして銀杏返しや島田の芸者たち……高下駄をはいてコートを着て、何ごとかぶつぶつ願を掛けている――雨の・・・ 織田作之助 「大阪発見」
喜美子は洋裁学院の教師に似合わず、年中ボロ服同然のもっさりした服を、平気で身につけていた。自分でも吹きだしたいくらいブクブクと肥った彼女が、まるで袋のようなそんな不細工な服をかぶっているのを見て、洋裁学院の生徒たちは「達磨・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・皆々はそれを受けたが、もっさりした小さな草だった。東坡巾先生は叮嚀にその疎葉を捨て、中心部のわかいところを揀んで少し喫べた。自分はいきなり味噌をつけて喫べたが、微しく甘いが褒められないものだった。何です、これは、と変な顔をして自分が問うと、・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・「私、知らん」「そらあてかて 知ったるさかい」「知らん、云わはるやないか」「どす がな」「ふーむ、そか?」「えげつない奴ちゃな」「とでも云えばええが」「もっさりしとる」「よう 肥えてやはりますな」・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫