・・・もとより、わたし一人の作品が民主主義文学の全部を代表するものではあり得ないし、一人の作家の一定の作品に革命的課題の全部――教育問題から土地革命、中小商工業者、民族資本家の問題まで盛ることも不可能です。今日の要求にこたえるべき階級的文学の多面・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・これは、磨ぎ澄まされ偏見を脱して輝く精神力や、それを盛るところの疲れを知らず倦怠を知らない原始生命的な男女の肉体を予想し、一部の人の間にローレンスの作品等がもてはやされるロマンティックな空想の素因をなしている。 私の疑問というのは、恋愛・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・と読んだ時、木賃宿でも主従の礼儀を守る文吉ではあるが、兼て聞き知っていた後室の里からの手紙は、なんの用事かと気が急いて、九郎右衛門が披く手紙の上に、乗り出すようにせずにはいられなかった。 敵討の一行が立った跡で、故人三右衛門の未亡人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・かくて父は、ちょうど頼山陽がそうであったように、足利氏の圧迫に対してただひとり皇室を守る楠公の情熱を自分の情熱としたのであった。この心持ちが、憲法発布以後に生まれた我々に、そっくりそのまま伝わって来ないのは当然である。我々は物を覚え始める最・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫