・・・を読んで二三日後に偶然映画「夜間飛行」を見た。これに出て来るライオネル・バリモアーの役が湿疹に悩まされていることになっていてむやみにからだじゅうをかきむしる。ジョン・バリモアー役の主人公が「おれもそんなに忠実なコンパニオンがほしい」とはなは・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・夏じゅうは昼間に暖まった甕の水が夜間の放熱で表面から冷え、冷えた水は重くなって沈むのでいわゆる対流が起こる。そのおかげで水が表面から底まで静かにかき回され、冷却されると同時に底のほうで発生した悪いガスなどの蓄積も妨げられる。それを、木のふた・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・あれでも万事整頓していたら旦那の心持と云う特別な心持になれるかも知れんが、何しろ真鍮の薬缶で湯を沸かしたり、ブリッキの金盥で顔を洗ってる内は主人らしくないからな」と実際のところを白状する。「それでも主人さ。これが俺のうちだと思えば何とな・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・頭は薬缶だが鬚だけは白いと云えば公平であるが、薬缶じゃ御話しにならんよと、一言で退けられたなら、鬚こそいい災難である。運慶の仁王は意志の発動をあらわしている。しかしその体格は解剖には叶っておらんだろうと思います。あれを評して真を欠いてるから・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・和尚の薬缶頭がありありと見える。鰐口を開いて嘲笑った声まで聞える。怪しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。悟ってやる。無だ、無だと舌の根で念じた。無だと云うのにやっぱり線香の香がした。何だ線香のくせに。 自分はいきな・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・私のようにどこか突き抜けたくっても突き抜ける訳にも行かず、何か掴みたくっても薬缶頭を掴むようにつるつるして焦燥れったくなったりする人が多分あるだろうと思うのです。もしあなたがたのうちですでに自力で切り開いた道を持っている方は例外であり、また・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・一例を挙ぐれば彼が自筆の新花摘に射干してく近江やわたかなとあり。射干は「ひおうぎ」「からすおうぎ」などいえる花草にして、ここは「照射して」の誤なるべし。蕪村が照射と射干との区別を知らざるはずはなけれど、かかることに無頓着の性とて気の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・烏の大尉は夜間双眼鏡を手早く取って、きっとそっちを見ました。星あかりのこちらのぼんやり白い峠の上に、一本の栗の木が見えました。その梢にとまって空を見あげているものは、たしかに敵の山烏です。大尉の胸は勇ましく躍りました。「があ、非常召集、・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・その顔が、横から夜間のフラッシュで撮されているのであった。興奮して、口を尖らかすようにしているその女の顔は、美しくない。せっぱつまって、力いっぱいという表情がある。年をへだて、事情の変ったいま眺めなおしたとき、その写真は私の心に憐憫を催おさ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・労働科学生中ロシア共産党への組織率 ロシア共産党 青年同盟 昼間 三二・一 四七・三 夜間 三三・八 四〇・六 一九二九年には十一万三千人あった技術家、熟練工を一九三三年にはその殆ど四倍・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫