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・・・面壁イ九年とやら、悟ったものだと我あ折っていたんだがさ、薬袋もないことが湧いて来て、お前様ついぞ見たこともねえ泣かっしゃるね。御心中のウ察しねえでもねえけんどが、旦那様にゃあ、代えられましねえ。はて、お前様のようでもねえ。断念めてしまわっし・・・
泉鏡花
「琵琶伝」
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・・・枕元には薬瓶、薬袋、吸呑み、その他。病床の手前には桐の火鉢が二つ。両方の火鉢にそれぞれ鉄瓶がかけられ、湯気が立っている。数枝、障子に向った小机の前に坐って、何か手紙らしいものを書いている。第二幕より、十日ほど経過。数枝、万年・・・
太宰治
「冬の花火」