・・・数羽の禿鷹コンドルを壁の根もとに一列につないでおいて、その前方三ヤードくらいの所を紙包みにした肉をさげて通ったが、鳥どもは知らん顔をしていた。そこで肉の包みを鳥から一ヤード以内の床上に置いてみたが、それでもまだ鳥は気がつかなかった。とうとう・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・日本の警官はイギリスのストックヤードの警官のように足を掬って自由を失ったところを逮捕すればよく、その人が警官を殺そうとして反抗をしない限り足を撃って自由を失ったものを逮捕する、そういう訓練はうけていない。日本の今日の警官は大部分が戦争経験者・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・ 更に一ヤードほど登った前方の草の間に、金の輪でも落ちているように光を放っているものがある。こごんでそれを眺め、私は覚えず息をつめた。 おおこれは一つの小さい銃口であった。生きながら埋められた生命が無限の思いを惻々と息づいている口で・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
出典:青空文庫