・・・ 夕食頃に、川窪の主人が帰ると、栄蔵の話をした。「お君だって、あんな不義理な事をした事は何と云ったって悪いには違いありませんけど、病気で難渋して居るのを助けてやるのは又別ですからね。 親父だって、ああやって働けもしないで・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 二十五歳という年を中心にして有職者を見くらべると男二百四十万人ばかりに対して女は百五十万人ばかりであるらしいけれども、朝日年鑑は昭和十四年版も十五年版も、同じ統計を転載しているから、実際の数の上では特にこの一二年間ずっと婦人の有職者が・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ 皆あがらず、本を持って行った。 夕食近く、エーの末弟が来る。彼のスウェーターはまだ出来上らない。〔一九二四年一月〕 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・ひとりをかみしめて食む 夕食と涙たよりにする親木をもたない小さい花はくらしの風に思うまゝ五体をふかせてつぼみの枝も ゆれながらひらく「女ひとり」のこの涙は、作者一人の味わったものではないであろう。「ひ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ 正午十二時に食事が配られ、四時すぎ夕食が配られ、夜は又茶だ。 夕方の六時、シェードのないスタンドの光を直かにてりかえす天井を眺めつつ口をあいて私はYにスープをやしなって貰って居る。 わきの寝台に腰をかけ、前へ引きよせた椅子の上・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・その西部で生れたアグネスが、カリフォルニヤ大学で、そこの理事会がインド人の講演に反対したことから、有色人種に対する研究心を刺戟され、永年に亙る人種的偏見への闘争をはじめていることはまことに面白い。アグネスは、自分が生きて来た経験から、自分の・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・そして、職業別にみると、有職者が六千数百人で第一位をなし、二十二歳が最高の率を示している。 春ごろ、青少年労働者が浪費と悪所遊びに陥る傾向について諸方面からの関心が向けられた。つまりは、いくらか余分の金が入ることと、健全な慰安が日常生活・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・私はフランス語の稽古を始めて、毎日夕食後に馬借町の宣教師の所へ通うことになった。 これが頗る私と君との交際の上に影響した。なぜかと云うに、君が尋ねてきても、私はフランス語の事を話すからである。君は、「フランス語も面白いでしょうが、僕は二・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・わたくしはあの時なんとも言わずにいましたが、あの日には夕食が咽に通らなかったのです。 女。大方そうだろうと存じましたの。 男。実は夜寝ることも出来なかったのです。あのころはわたくしむやみにあなたを思っていたでしょう。そこで馬鹿らしい・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・丘を下っていくものが半数で、栖方と親しい後の半数の残った者の夕食となったが、忍び足の憲兵はまだ垣の外を廻っていた。酒が出て座がくつろぎかかったころ、栖方は梶に、「この人はいつかお話した伊豆さんです。僕の一番お世話になっている人です。」・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫