これは小さい子供を持った寡婦がその子供を寐入らせたり、また老いて疲れた親を持った孝行者がその親を寝入らせたりするのにちょうどよい話である。途中でやめずにゆっくり話さなくてはいけない。初めは本当の事のように活溌な調子で話すが・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「云うてくれって、お前宝船やないか、ゆっくりそこへ坐っとりゃ好えのじゃ。」「こらこら、俺も行くぞ。」「阿呆ぬかせ! 伯母やん、此奴どっこも行くとこが無うて困っとるのやが、ちょっとの間、世話してやっとくれ。」「そんなこと云うて・・・ 横光利一 「南北」
・・・秋の日は暮れが早いので、やがて辞し去ろうとすると、「まあ飯を食ってゆっくりしていたまえ、その内いつもの連中がやってくるだろう」と言ってひきとめられた。膳が出ると、夫人が漱石と私との間にすわって給仕をしてくれられた。夫人は当時三十六歳で、私の・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫