・・・若いものでないと、この口上は――しかも会費こそは安いが、いずれも一家をなし、一芸に、携わる連中に――面と向っては言いかねる、こんな時に持出す親はなし、やけに女房が産気づいたと言えないこともないものを、臨機縦横の気働きのない学芸だから、中座の・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・「よっぽど悋気深い女だよ」と、妻は僕に陰口を言ったが、「奥さん、奥さん」と言われていれば、さほど憎くもない様子だ。いろいろうち解けた話もしていれば、また二人一緒になって、僕の悪口――妻のは鋭いが、吉弥のは弱い――を、僕の面前で言って・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・これらは発声映画と無声映画との特長をそれぞれ充分に把握した上で、巧みに臨機にそれを調合配剤しているものと判断されることはたしかである。しかしこのような見え透いた細工だけであれほどの長い時間観客を退屈させないでぐいぐい引きずり回して行くだけの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・もちろん烈震の際の危険は充分に分っているが、いかなる震度の時にいかなる場所にいかなる程度の危険があるかということの概念がはっきりしてしまえば、無用な恐怖と狼狽との代りに、それぞれの場合に対する臨機の所置ということがすぐに頭の中を占領してしま・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・しかし弓の毛にも多少のむらがあるのみならず、弓の根もとに近いほうと先端に近いほうとではいろいろの関係がちがうから、そういう変化にも臨機に適当に順応して自由な弦の運動を助長し一様に平滑によい音を出すためには、ただ機械的に一定圧力一定速度で直線・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き疾あれば去る。六に多言にて慎なく物いひ過すは、親類とも中悪く成り家乱るゝ物なれば去べし。七には物を盗心有るを去る。此七去は皆聖人の教也。女は一度嫁して其家を出されては仮令二度富貴なる夫に嫁すとも、女・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・如何にも不親切な、臨機の処置を知らぬ検疫官だと思うて少しは恨んで見た。しかし今は平和の時でないのだから余り卑怯な事はいうまい位の覚悟は初めからして居る。そう思うて自分はあきらめた。けれどもつくづくと考えて見るとまた思い乱れてくる。平生の志の・・・ 正岡子規 「病」
・・・この事実が、婦人の職業の一つとして看護婦という立場をとった場合にでも、何となし先生に対して依頼心のつよい、命令に従順でさえあれば、看護婦としての範囲とその責任において、臨機に病人を扶けてゆく積極性をかくわけでしょう。 病気で苦しいとき、・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き病あらば去る。六に多言にて慎なく物いい過すは親類とも中悪く成り家乱るる物なれば去るべし。七には物を盗む心有るは去る。此七去は皆聖人の教也。」 聖人というのは支那の儒教の聖人のことなのだが、女の生・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・と断言している。悋気も女はつつしむべし、と荷風には考えられており、女に悋気せしめる男の側のことは触れられない。その荷風の見かたに適合した何人かの「婦女」がかつて彼の「後堂に蓄え」られたこともあったのである。 私が、荷風のロマンティシズム・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫