・・・ かつ椿岳の水彩や油画は歴史的興味以外に何の価値がない幼稚の作であるにしろ、洋画の造詣が施彩及び構図の上に清新の創意を与えたは随所に認められる。その著るしきは先年の展覧会に出品された広野健司氏所蔵の花卉の図の如き、これを今日の若い新らし・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ご承知の通りカーライルが書いたもののなかで一番有名なものはフランス革命の歴史でございます。それである歴史家がいうたに「イギリス人の書いたもので歴史的の叙事、ものを説き明した文体からいえば、カーライルの『フランス革命史』がたぶん一番といっても・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・いちばん修身と歴史が好きだよ。君は? ……」 正雄さんも歴史は大好きなもんですから、「僕も歴史は好きだ。やはり海の学校の読本にも、壇の浦の合戦のことが書いてあるかえ。」とききました。「それはあるさ、義経の八そう飛びや、ネルソンの・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・男にも髪の歴史というものがないわけではない。 二 私は高等学校にはいった途端に、髪の毛を伸ばした。何故伸ばしたか。理由は簡単である。私の顔は頬骨がいやに高い。それ故丸坊主になると、私の頭は丁度耳の附根あたりで急に細・・・ 織田作之助 「髪」
・・・新宿赤羽間の鉄道線路に一人の轢死者が見つかった。 轢死者は線路のそばに置かれたまま薦がかけてあるが、頭の一部と足の先だけは出ていた。手が一本ないようである。頭は血にまみれていた。六人の人がこのまわりをウロウロしている。高い土手の上に子守・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・ 自然生の三吉が文句じゃないが、今となりては、外に望は何もない、光栄ある歴史もなければ国家の干城たる軍人も居ないこの島。この島に生れてこの島に死し、死してはあの、そら今風が鳴っている山陰の静かな墓場に眠る人々の仲間入りして、この島の土と・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・というのが夫婦愛で、これは長い年月を経済生活、社会生活の線にそうて、助け合ってきた歴史から生まれたものである。 そして不思議なことには、この人は子どもも可愛がるが、生活欲望も非常に強い。妻らしく、母らしい婦人が必ずしも生活欲望が弱いとし・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・戦争には、残虐や、獣的行為や、窮乏苦悩が伴うものであるが、それでも、有害で反動的な悪制度を撤廃するのに役立った戦争が歴史上にはあった。それらは、人類の発展に貢献したことから考えて是認さるべきである。で、プロレタリアートは、現在の戦争に対して・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・イヤでも黴臭いものを捻くらなければ、いつも定まりきった書物の中をウロツイている訳になるから、美術だの、歴史だの、文芸だの、その他いろいろの分科の学者たちも、ありふれた事は一ト通り知り尽して終った段になると、いつか知らぬ間に研究が骨董的に入っ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・震死する。轢死する。工場の機械にまきこまれて死ぬる。鉱坑のガスで窒息して死ぬる。私欲のために謀殺される。窮迫のために自殺する。今の人間の命の火は、油がつきて滅するのでなくて、みな烈風に吹き消されるのである。わたくしは、いま手もとに統計をもた・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
出典:青空文庫