・・・その客観のうすら明りのなかに、何とたくさんの激情の浪費が彼女の周囲に渦巻き、矛盾や独断がてんでんばらばらにそれみずからを主張しながら、伸子の生活にぶつかり、またそのなかから湧きだして来ていることだろう。「伸子」で終った一巡の季節は、「二・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・作者は計らずも、自身にとってその害悪の実感される環境において、人間性の浪費の悲劇を描いたのだった。「三郎爺」は一九一七年にかかれた。「古き小画」とは数年をへだてている。それにもかかわらず、一つの面白い共通点がある。作者はこの二つの作品の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・それはそういう立場におちいった作家たちにしろ、あれだけ深刻な戦争の現実の一端にふれ、国際的なひろがりの前で後進国日本の痛切な諸矛盾を目撃し、日に夜をつぐいたましい生命の浪費の渦中にあったとき、一つ二つ、あるいは事態そのものについて、一生忘ら・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・諸大名に対する密偵制度、抑圧制度は実にゆき届いていたから、分別のある諸大名は、世襲の領地を徳川から奪われないために、中傷をさけるための工夫に、自分たちの分別の最も優秀な部分を浪費した。余り賢くあること、余り英邁であること、それさえも脅威をも・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
出典:青空文庫