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・・・その頃には電車通からも横町の突当りに立っていた楼門が見えた。この寺の墓地と六間堀の裏河岸との間に、平家建の長屋が秩序なく建てられていて、でこぼこした歩きにくい路地が縦横に通じていた。長屋の人たちはこの処を大久保長屋、また湯灌場大久保と呼び、・・・
永井荷風
「深川の散歩」
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・・・龍宮造りの楼門のところで遊んで居る息子を頻りに呼ぶ。息子は来ず、労働服をつけた男が家に帰るらしく石段をかたかた下から登って来た。唐門を入ったつき当りの低い築地から枝をさし出した一叢の紅薔薇が、露多い夕闇に美しかった。 夜、一番賑やかとい・・・
宮本百合子
「長崎の一瞥」