・・・ですから遠藤はこれを見ると、さては計略が露顕したかと思わず胸を躍らせました。が、妙子は相変らず目蓋一つ動かさず、嘲笑うように答えるのです。「お前も死に時が近づいたな。おれの声がお前には人間の声に聞えるのか。おれの声は低くとも、天上に燃え・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・ことによると俺の馬の脚も露見する時が来たのかも知れない。……」 半三郎はこのほかにも幾多の危険に遭遇した。それを一々枚挙するのはとうていわたしの堪えるところではない。が、半三郎の日記の中でも最もわたしを驚かせたのは下に掲げる出来事である・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ なよやかな白い手を、半ば露顕に、飜然と友染の袖を搦めて、紺蛇目傘をさしかけながら、「貴下、濡れますわ。」 と言う。瞳が、動いて莞爾。留南奇の薫が陽炎のような糠雨にしっとり籠って、傘が透通るか、と近増りの美しさ。 一帆の濡れ・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・そしてかごの上に結んである緋縮緬のくけ紐をひねくりながら、「こんな紐なぞつけて来るからなおいけない、露見のもとだ、何よりの証拠だ」と、法科の上田がその四角の顔をさらにもっともらしくして言いますと、鷹見が、「しかし樋口には何よりこの紐がう・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・明らかに狐を使った者は、応永二十七年九月足利将軍義持の医師の高天という者父子三人、将軍に狐を付けたこと露顕して、同十月讃岐国に流されたのが、年代記にまで出ている。やはり祇尼法であったろうことは思遣られるが、他の者に祈られて狐が二匹室町御所か・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・美濃とのあいだが露見したからでは無い。ふたりは、ひとめを欺く事には巧みであった。てるは、その物腰の粗雑にして、言語もまた無礼きわまり、敬語の使用法など、めちゃめちゃのゆえを以て解雇されたのである。 美濃は、知らぬ振りをしていた。 三・・・ 太宰治 「古典風」
・・・どうせ露見する事なのに、一日でも一刻でも永く平和を持続させたくて、人を驚愕させるのが何としても恐しくて、私は懸命に其の場かぎりの嘘をつくのである。私は、いつでも、そうであった。そうして、せっぱつまって、死ぬ事を考える。結局は露見して、人を幾・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・人目を忍び、露見を恐れ、絶えずびくびくとして逃げ回っている犯罪者の心理は、早く既に、子供の時の僕が経験して居た。その上僕は神経質であった。恐怖観念が非常に強く、何でもないことがひどく怖かった。幼年時代には、壁に映る時計や箒の影を見てさえ引き・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・後で身代りと露見した時の小町の驚き、憤りを、一層愛らしい人間的なものにする効果もある。 お里や早瀬の時には心づかなかったが、小町になって、少将が夜な夜な扉を叩く音が宛然、我身を責めるように「響く」と云うのを、宗之助は、高々と「シビク」と・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
出典:青空文庫