・・・真うつむけに背ののめった手が腕のつけもとまで、露呈に白く捻上げられて、半身の光沢のある真綿をただ、ふっくりと踵まで畳に裂いて、二条引伸ばしたようにされている。――ずり落ちた帯の結目を、みしと踏んで、片膝を胴腹へむずと乗掛って、忘八の紳士が、・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・何、……紡績らしい絣の一枚着に、めりんす友染と、繻子の幅狭な帯をお太鼓に、上から紐でしめて、褪せた桃色の襷掛け……などと言うより、腕露呈に、肱を一杯に張って、片脇に盥を抱えた……と言う方が早い。洗濯をしに来たのである。道端の細流で洗濯をする・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ええ、それをですわ、――世間、いなずま目が光る―― ――恥を知らぬか、恥じないか――と皆でわあわあ、さも初路さんが、そんな姿絵を、紅い毛、碧い目にまで、露呈に見せて、お宝を儲けたように、唱い立てられて見た日には、内気な、優し・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 今宵は大宮に仮寝の夢を結ばんとおもえるに、路程はなお近からず、天は雨降らんとし、足は疲れたれば、すすむるを幸に金沢橋の袂より車に乗る。流れの上へ上へとのぼるなれど、路あしからねば車も行きなずまず。とかくするうち夏の夕の空かわりやすく、・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・けれども、こんど、勝治の卒業を機として、父が勝治にどんな生活方針を望んでいたのか、その全部が露呈せられた。まあ、普通の暮しである。けれども、少し頑固すぎたようでもある。医者になれ、というのである。そうして、その他のものは絶対にいけない。医者・・・ 太宰治 「花火」
・・・遠くから見て敬意を抱いていた芸術家たちが、ジャーナリストとして接触してゆくと、その人々のジャーナリズムへの態度が露呈され、人間的にも幻滅し文学的にも別な目をさまされる。そして悲しいことに、一種の文化的すれからしとなってしまう。「まんじ」が一・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・様々の、情熱を失った道義観やきれいごとの底を割って人間のぎりぎりの姿を露呈させよ、という。そして肉体の経験、その中でも性的経験だけが信じることの出来る人間性のよりどころ、実在感の基点であるとされている。 たしかに日本の過去の、そして今日・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・であるし、文学が現実を隈なくとらえてゆく意味でのリアリティを失ってゆくのも実際であるが、小説のなかにただそういう性格が実際生活の中でと同様に跋扈するという現象と、時代と社会がディフォームしたものとして露呈している現実を典型として文学のディフ・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・人に衣服を剥がれるまでは露呈しない。精神上にも自家の醜は隠される間は隠している。そればかりではない。フランスの誰やらの本に、大賊が刑せられる時、人間の一番大切なる秘密を語ろうと云った。人が何かと問うた。賊は「白状するな」と云ったと云うのであ・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・これは欧米人が、その奢侈をありのままに露呈してはばからないのに比べると、非常に異なった好みである。世間をはばかり、控え目にするという態度そのものが、その好みの核心になっているのである。こういう好みは日本でももう古風であるかもしれないが、藤村・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫