・・・ けれども今日は、こんなにそらがまっ青で、見ているとまるでわくわくするよう、かれくさも桑ばやしの黄いろの脚もまばゆいくらいです。おまけに堆肥小屋の裏の二きれの雲は立派に光っていますし、それにちかくの空ではひばりがまるで砂糖水のようにふる・・・ 宮沢賢治 「イーハトーボ農学校の春」
・・・ ホモイはうれしさにわくわくしました。 「特別に許してやろう。お前を少尉にする。よく働いてくれ」 狐が悦んで四遍ばかり廻りました。 「へいへい。ありがとう存じます。どんな事でもいたします。少しとうもろこしを盗んで参りましょう・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・すると向こう岸についた一郎が、髪をあざらしのようにしてくちびるを紫にしてわくわくふるえながら、「わあ又三郎、何してわらった。」と言いました。 三郎はやっぱりふるえながら水からあがって、「この川冷たいなあ。」と言いました。「又・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ジョバンニはわくわくわくわく足がふるえました。魚をとるときのアセチレンランプがたくさんせわしく行ったり来たりして黒い川の水はちらちら小さな波をたてて流れているのが見えるのでした。 下流の方は川はば一ぱい銀河が巨きく写ってまるで水のないそ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ブドリは胸がわくわくしました。山まで踊りあがっているように思いました。じっさい山は、その時はげしくゆれ出して、ブドリは床へ投げ出されていたのです。大博士が言いました。「やるぞ、やるぞ。いまのはサンムトリの市へも、かなり感じたにちがいない・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・その空からは青びかりが波になってわくわくと降り、雪狼どもは、ずうっと遠くで焔のように赤い舌をべろべろ吐いています。「しゅ、戻れったら、しゅ、」雪童子がはねあがるようにして叱りましたら、いままで雪にくっきり落ちていた雪童子の影法師は、ぎら・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・と心に叫ぶ時のわくわくする亢奮を、今も尚鮮かに思い出せるが――然し、子供の時分雨が降ると何故あんなに家じゅう薄暗くなっただろう。部屋の中で座布団をぶつけ合って騒ぐ。或はもう少しおとなしい子供らしく静かに電車ごっこでもする。遊びはいつもの・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・ 遽しい、わくわくした、嵐のような歓びのそよぎだ――ほら! 来るぞ。来るぞ。ミーダ成程。此方に向って翔んで来る羽搏きの音が風を切って迫るな。――やあ、見ろ、俺達の奴どもだ!宮の柱激しく揺れ、その間からヴィンダーブラ、ミーダの使者・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・胸をわくわくさせるような物珍らしさが去った代りに、又文字に書き写せる丈、心に余裕が出来たのである。何年まで此が続くか、如何那ことが起って来るか、書く私自身も知り得ない未来が、我々の将来には横って居る。 家 A・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・を出品したサロンの入賞と陳列の位置とがきまる前後で、マリアは、大変わくわくしている。四月三十日にサロンの初日に出かけ、新聞の批評に気を揉み、あるいは会場で自分の絵を眺めている大勢の人々を長椅子にかけて見物しながら「それらのすべての人たちが、・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫