・・・が、日本へ帰ったばかりのテオドラ嬢は日本の民間党の領袖に母国の大政治家ジスレリーを私淑する花形役者があるのを少しも知らなかったろうし、またこの和製ジスレリーが未来の良人となる事を少しも予期しなかったろう。噂だから虚実は解らぬが、当時のテオド・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ お姉さんは、これまで見た、紅茶の空きかんといえば、たいていリプトンであったのが、いつのまにか、みんな和製を使用するようになったとみえて、リプトンの空きかんは、一つもないと思われました。ここにも、世の中の変化があらわれているような気がし・・・ 小川未明 「小さな弟、良ちゃん」
・・・と名づける道具で現わすことが困難であると同様にこの映画の律動的和声的要素の長所を文字の羅列で置き換えようとすることは、始めから見込みのないことでなければならない。 音楽における律動的要素の由来は、学問的に言えばなかなかむつかしい問題であ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ それで芸術家が神来的に得た感想を表わすために使用する色彩や筆触や和声や旋律や脚色や事件は言わば芸術家の論理解析のようなものであって、科学者の直感的に得た黙示を確立するための論理的解析はある意味において科学者の技巧とも見らるべきものであ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 始めての私にはこれらの曲や旋律の和声がみんなほとんど同じもののように聞えた。物に滲み入るような簫の音、空へ舞い上がるような篳篥の音、訴えるような横笛の音が、互いに入り乱れ追い駆け合いながら、ゆるやかな水の流れ、静かな雲の歩みのようにつ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・結局私はこの油の漏れる和製の文化的ランプをハンダ付けでもして修繕して、どうにか間に合わせて、それで我慢する外はなさそうである。 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・ 普通の和製のレコードとヴィクターのと見比べて著しく目につく事は盤の表面のきめの粗密である。その差はことに音波の刻まれた部分に著しい。適当な傾きに光を反射させて見た時に一方のはなんとなくがさがさした感じを与えるが、一方は油でも含んだよう・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・連歌に始まり俳諧に定まった式目のいろいろの規則は和声学上の規則と類似したもので、陪音の調和問題から付け心の不即不離の要求が生じ、楽章としての運動の変化を求めるために打ち越しが顧慮され去り嫌い差合の法式が定められ、人情の句の継続が戒められる。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 複音が相次いで進行する場合にそこにいろんな込み入ったいわゆる和声学上の規則が生まれて来る。これらを一々引き合いに出して連句の場合に付会しようとしても、それはおそらく始めから無理であるにきまっているが、しかし連句の相次ぐ二句の接触によっ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・急性肺炎にきく薬はペニシリンしかないというとき、和製のペニシリンはよくきかないからと云って、それを使わずに良人を死なす妻が天下にあるだろうか。日本の解放運動が様々の歴史的負担のもとに未熟であったとして、日本の解放運動の形がそのほかになかった・・・ 宮本百合子 「誰のために」
出典:青空文庫