・・・人だけを選りぬいて登場させる、弁護士にはなるべく口が利けないようにするが、但し後の伏線になるようにアパートの時計が二十分進んでいたというアパート掃除婦の新証言をつかまえさせて後に警察医の鑑定と対照してアリバイを構成する準備をしておくのである・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・手のこんだアリバイの示しかたです。 ここに「北岸部隊」というものを書いた一人の作家があります。農村から、工場から、勤口から、学校から兵隊にされていっている人たちが、人間らしく悲しみ、人間らしく無邪気に歓び、死にさらされているありさまを目・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得る」と語っている。検事のこの言葉は「あり得る」あらゆる罪名をもって飯田、山本両氏を犯人にしようとしているような感・・・ 宮本百合子 「犯人」
出典:青空文庫