・・・の事だからいつだかわからんと云ったような事を云うてザブ/\とすまし、机の上をザット片付けて革鞄へ入れるものは入れ、これでよしとヴァイオリンを出して second position の処を開けてヘ調の「アンダンテ」をやる。1st とちがって何・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・テンポにもアダジオやアンダンテはあってもアレグロがなく、表情にもフォルチシモがなく、そうかと云ってピアニシモもなかった。 ウィンナ舞踊はそういう意味では一番「音楽的」であったかもしれない。テンポにもエキスプレションにも少なくも理論的には・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・というふうに全く同じ四拍子アンダンテの旋律を繰り返しながら、だんだんに薬の効能書きを歌って行くのである。「そのまた薬の効能は、疝気疝癪胸痞え」までは覚えているがその先は忘れてしまった。 子供らはこの薬売りの人間を「ホンケ」と呼んでいた。・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・テンポで言えばまずアンダンテのような心持ちである。第二楽章十二句になるとよほど活発にあるいはパッショネートになって来て、恋をしたり子をかわいがったり大病をしたり坊主になったりする。しかし全体のテンポは私にはむしろ緩徐に感ぜられ、アダジオのよ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫