・・・呉は、その上へアンペラを置いた。そして、その上へ、秣草を入れた麻袋を置いた。傷ついた腕はまだ傷そうであった。しかし、人には、もうだいじょうぶだ、癒った、と言った。「一人で出かけるのかい!」 田川は訊ねた。「うむ、お前も行きたいか・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・二十日間も風呂に這入らない兵士達が、高粱稈のアンペラの上に毛布を拡げ、そこで雑魚寝をした。ある夕方浜田は、四五人と一緒に、軍服をぬがずに、その毛布にごろりと横たわっていた。支那人の××ばかりでなく、キキンの郷里から送られる親爺の手紙にも、慰・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・私が立ち上ってそのままあっち向きにぬいであるアンペラ草履をはこうとしたら、「その紙なんかも持って……引越しだ」と云った。「引越し? どこへ?」 よそへ廻されるのか。瞬間そう思った。が、看守はそれに答えず、「あっちにゴザの・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・それはアンペラである。丁寧に、繩の結びめも柔かくアンペラで頭部をかくまわれた。雪と霜とで傷められるのに忍びないのであろう。 キビの葉は乾いた音をたてて、この辺の焼けあと、あちこちに立っている。白山の停留場に立っていると、昔から鶏声ケ窪と・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・夏ゴーリキイに会っているので、彼の生れ、そして育ったニージュニ・ノヴゴロドの街や、ヴォルガと流れ合っているオカ河の長い木橋、その時分でもまだアンペラ草鞋を履いて群れている船人足の姿、波止場近くの小さい教会が、丸い赤い屋根をそのまま魚市場に使・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
出典:青空文庫