・・・浅薄なイデオロギーによって、児童を在来の文化に囚えんとするもの、もしくは、政治的目的意識によって階級観念を植付けんとするもの等であって、人間の全的の感情を養い套習の覊絆から解放し、自由の何たるかを知らせんとする、真の文学の絶無といってもいゝ・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・そして、これは明治時代の作家の、そのかなり大部分のイデオロギーにも反映せずにはいなかった。殊に、明治に於ける文学運動のなかでも歴史的に最も意義のある自然主義運動の選ばれた代表者、国木田独歩、田山花袋についてそれを見出すことが出来る。勿論、自・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・それに、いまでは、ブルジョアイデオロギーの悪徳が、かつての世の思潮に甘やかされて育った所謂「ブルジョア・シッペル」たちの間にだけ残っているので、かえって滅亡のブルジョアたちは、その廃頽の意識を捨てて、少しずつ置き直っているのではないか。それ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・それはプロレタリア意識とか、プロレタリアイデオロギーとか、そんなものから教えられたものでなく、キリストの汝等己を愛する如く隣人を愛せよという言葉をへんに頑固に思いこんでしまっているらしい。しかし己を愛する如く隣人を愛するということは、とても・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・それにはイデオロギーの教養に無関係に世界の人間の心を捕えるものがなければならない。そうしてそれはロシア人にもフランス人にも日本人にも共通に通用するものでなければならない。そうだとすれば、それはまた必ずしも映画以来はじめて発明されたものではな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・このおもしろさはもちろん物語の筋から来るのでもなく、哲学やイデオロギーからくるのでもなんでもなくて、全編の律動的な構成からくる広義の音楽的効果によるものと思われる。 この映画の視覚的要素で著しく目立ったライトモチーフと思われるものは、並・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たとえば水晶で作られたようなプランクトンがスクリーンいっぱいに活動しているのを見る時には、われわれの月並みの宇宙観は急に戸惑いをし始め、独断的な身勝手イデオロギーの土台石がぐらつき始めるような気がするであろう。不幸にしてこういう映画の、こと・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・それからまた鹿狩りの場に現われた貴族的なスポーツ風景は国粋主義の紳士淑女を喜ばすものであり、シャトーにおける生活の空虚と痴愚を露骨に風刺する多数の画面は卑近な民衆イデオロギーに迎合するものであろう。その中で比較的成効しているのは、サヴィニャ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・しかるにこのごろの多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりもいっそう皮相的に見た物の姿をかりて、最も浅薄なイデオロギーを、しかも観者にはなるべくわかりにくい形に表現することに・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・然るにこの頃の多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりも一層皮相的に見た物の姿をかりて、最も浅薄なイデオロギーを、しかも観者にはなるべく分りにくい形に表現することによって、何・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
出典:青空文庫