・・・ 浅草は今では活動写真館が軒を並べてイルミネーションを輝かし、地震で全滅しても忽ち復興し、十二階が崩壊しても階下に巣喰った白首は依然隠顕出没して災後の新らしい都会の最も低級な享楽を提供している。が、地震では真先きに亡ぼされたが、維新の破・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・僕もきっとくるから、そして海の底の都には、こんな真珠や、紫水晶や、さんごや、めのうなどが、ごろごろころがっていて、建物なんか、みんなこれでできているから、電気燈がつくと、いつでも町じゅうがイルミネーションをしたようで、はじめてきたものは目が・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・あの広告のイルミネーションが、せわしなくまたたきをするたびに色がぱっぱっと変わる、そのように私の頭の中でもいろいろの考えがまたたくように明滅した。 そこから帰る電車の中で、またこのあいだと同じようなまとまりのつかない考えを繰り返した。繰・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・赤、青、緑、いろいろの電球をズックの天井の下につるし並べてイルミネーションをやる。一等室のほうからも燕尾服の連中がだんだんにやってくる。女も美しい軽羅を着てベンチへ居並ぶ。デッキへは蝋かなにかの粉がふりまかれる。楽隊も出て来てハッチの上に陣・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・レーニン廟の板がこいの壁画をめぐって、イルミネーションがともされた。 有名な昔の首切台の中には、雲つくような労働者の群像が飾られている。 強烈なアーク燈に照らされ、群像の上にひるがえる幾流もの赤旗は夜に燃える火のようだ。左手につづく・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・わきの方にチラチラとイルミネーションのついた看板が淋しく一二枚出ている狭い入口があって、そこから階段をあがって行くと、二階が映画館になっているのであった。 冬だと、誰でも靴の上にもう一つ重ねてフェルトの厚ぼったい防寒靴をはいて外を歩くの・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・それが虫喰いだらけで丸でイルミネーションみたいに日光をすかすのを眺めると、さすがの私も「まあ、きれいね!」というより先に「あらアー」と情けない声を出しました。しかしとても捨てることは出来ないから、何れ一つ一つをつくろいましょうが、人に頼める・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 夜一時近く赤い広場は煌々たるイルミネーションと人出だ。朝から夕方までおびただしい人間の足の下にあった赤い広場の土はもうぽくぽくになっている。夜気の中でもそのほとぼりと亢奮がさめ切っていないところどころで、臨時施設の飲料水道の噴水があふ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 夜はイルミネーションだ。 その壮観を見物しようとして押しかけて来た家族連れの群集で、夜の赤い広場がまたえらい人出だ。 モスクワ市発電所の虹のようなイルミネーションが、チラチラ美しくモスクワ河の面に溶けている。赤色労働組合の総本・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・ 夜ホテルの屋上で食事をしていると、暗いカスピ海の面に、イルミネーションをつけた船が三隻ある。艫からメイン・マスト、舳へと一条張られたイルミネーションは遠目に細かく燦めき、海面の夜の濃さを感じさせた。 室へ帰って手帳に物を書いていた・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫