・・・私ばかりでなく日本中幾万の人はこの人から「インスピレーション」を得たでありましょうと思います。あなたがたもこの人の伝を読んでごらんなさい。『少年文学』の中に『二宮尊徳翁』というのが出ておりますが、アレはつまらない本です。私のよく読みましたの・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・また、ある夕方、御飯をおひつに移している時、インスピレーション、と言っては大袈裟だけれど、何か身内にピュウッと走り去ってゆくものを感じて、なんと言おうか、哲学のシッポと言いたいのだけれど、そいつにやられて、頭も胸も、すみずみまで透明になって・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・この直感は芸術家のいわゆるインスピレーションと類似のものであって、これに関する科学者の逸話なども少なくない。長い間考えていてどうしても解釈のつかなかった問題が、偶然の機会にほとんど電光のように一時にくまなくその究極を示顕する。その光で一度目・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・日本はまるで筍のように一夜の中にずんずん伸びて行く。インスピレーションの高調に達したといおうか、むしろ狂気といおうか、――狂気でも宜い――狂気の快は不狂者の知る能わざるところである。誰がそのような気運を作ったか。世界を流るる人情の大潮流であ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ さて当時は理想を目前に置き、自分の理想を実現しようと一種の感激を前に置いてやるから、一種の感激教育となりまして、知の方は主でなく、インスピレーションともいうような情緒の教育でありました。なんでも出来ると思う、精神一到何事不成というよう・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ゆる能力の活動を含んでいるのだから政治に軍事に宗教に経済に各方面にわたって一望したらどういう頼母しい回顧が出来ないとも限るまいが、とくに余に密接の関係ある部門、即ち文学だけでいうと、殆んど過去から得るインスピレーションの乏しきに苦しむという・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・具体的にたのまれなければインスピレーションを実現しないとお笑いになったって? なかなか辛辣ね。ひどい! と思いながら思わず私もニヤリとしてしまいましたが。作品によって過去の作品を克服してゆくということは、全くです。私は、評伝風なものとしては・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫