・・・ インテリゲンチャの啓蒙運動はただいくらかそれを早めたにすぎない。そして、それを早めたことが、実際ロシアの民衆にとって、よいことであったか、悪いことであったかは、遽かに断定さるべきではないと私は思うものだ。もし、私の零細な知識が、私をい・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ロシアでインテリゲンチャが偉い働きをしたから、日本でもインテリゲンチャが働くのに何が悪いなどの議論も聞くが、そんなことをいう人があったら現在の日本ではたいていはみずから恥ずべきだと僕は思うのだ。ロシアの人たちはすべての所有を賭し、生命を賭し・・・ 有島武郎 「片信」
・・・彼等のうちにも多少の党派別があり、それ/″\の主張があるのではあろうが、私なんぞから見ると、彼等は悉く東京のインテリゲンチャ臭味に統一されている。彼等の関心は、東京の文化と、東京を通じて輸入される外来思想とのみに存して、自分たちの故郷の天地・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・しかし現代に生を享けて、しかも学徒としての境遇におかれたインテリゲンチャの青年にあっては、その倫理的要請は倫理学というひとつの合理的なる学に向かうということはきわめて自然なことである。自分の如きもその過程をとった一人であった。 上述の如・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・その後のブルジョア文学は、一二の作品で農民を題材としていることがあっても、ほとんど大部分が主として、小ブルジョア層や、インテリゲンチャにチヤホヤして、農民をば、一寸、横目でにらんだだけで素通りしてしまった。それはブルジョア文学としては当然で・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・然し、あなたは近代インテリゲンチャ、不安の相貌を具えている。余りでたらめは書きますまい。あなたは黄表紙の作者でもあれば、ユリイカの著者でもある。『殴られる彼奴』とはあなたにとって薄笑いにすぎない。あなたがあやつる人生切り紙細工は大南北のもの・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・皮肉なことは、戦後派とよばれた近代文学同人たちの大部分が、前年の下半期から一九四九年をとおして、インテリゲンチャとしてそれぞれに着目すべき社会的文学的前進を行っていたことである。個人主義の開花時代の近代ヨーロッパの文学精神を、日本で窒息させ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・それは日本の封建性の圧迫をつねに感じていて、そのために感受性が異常になっている日本のインテリゲンチャの間には、一九二八年以来、奇妙な自己撞着があるということである。その自己撞着は、いつも自我の解放、個人の運命の自由な展開ということについて熱・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・と云われる現代では、なんとなく個人的な開花を渇望する気分があります。インテリゲンチャには、とくにこのことが強く感じられるために、却って全体としての前進に躊躇する気分もあります。しかし、日本の歴史は、遅れているだけ二重にかさなった早い面がある・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・ 日本はこの十年来、猛烈な動きを経験しつつある。インテリゲンチャ大衆の心持も大いに動いた。往年、その事大主義的な天質に従って学生運動の頭領となった一人の男が、同じ天質に従って今日は文化に対する統制の旗ふりとなっている現実である。小林多喜・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
出典:青空文庫