・・・ 私の小説はグロテスクでエロチックだから、合わせてグロチックだと、家人は不潔がっていた。「ああ、今も書きたいよ。題はまず『妖婦』かな。こりゃ一世一代の傑作になるよ」 家人は噴きだしながら降りて行った。私はそれをもっけの倖いに思っ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・彼はそういう女をどうしてもエロチックには感ぜられなかった。すぐその惨めさがきた。それで彼は生理的な発作のようにくる性慾のために、夜通し興奮して寝れないことがあった。こんなことで苦しむのはばかげたことかもしれない。が、プルドーンが、そんな時屋・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・たとえば道成寺縁起という一つのテーマがあり、それの内容となるべきひとくさりのグロテスクでエロチックでまた宗教的なストーリーがある。絵巻物の画家は、そのストーリーから一つのシナリオを作らなければならない。まずいかにしてヒーローとヒロインを「紹・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・資本主義化された海港都市にあって一層グロテスクであるところの中国苦力に乞食。エロチックであるところの植民地中国売笑婦だ。今日の中国と世界プロレタリア革命との必然的連関ではない。 説明するまでもなくエキゾチックだということは、ある民族の自・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・その同じ理由からエロチックな中間小説が氾濫するといわれてもいるが、人生を大切に思っているすべての人の心には、このみじめな循環法にたつ説明だけでは納得できないものがある。こんな男にとっても、女にとっても不幸な混乱をそのままにうけとっているだけ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 煖炉を背にして立って、戸口を這入った雪を見た秀麿の顔は晴やかになった。エロチックの方面の生活のまるで瞑っている秀麿が、平和ではあっても陰気なこの家で、心から爽快を覚えるのは、この小さい小間使を見る時ばかりだと云っても好い位である。・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫