・・・一年後ぼくはレギュラーになり、二年後、第十回オリンピック選手としてアメリカに行きました。当時二十歳、六尺、十九貫五百、紅顔の少年であります。ボートは大変下手でした。先輩ばかりでちいさくなっていました。往復の船中の恋愛、帰ってきたぼくは歓迎会・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・トリツク怒濤、実ハ楽シキ小波、スベテ、コレ、ワガ命、シバラクモ生キ伸ビテミタイ下心ノ所為、東京ノオリンピック見テカラ死ニタイ、読者ソウカト軽クウナズキ、深キトガメダテ、シテハナラヌゾ。以上。 山上の私語。「おもしろく読みました。・・・ 太宰治 「創生記」
・・・あの日、三伏の炎熱、神もまたオリンピック模様の浴衣いちまい、腕まくりのお姿でござった。」聞くもの大笑せぬはなく、意外、望外の拍手、大喝采。ああ、かの壇上の青黒き皮膚、痩狗そのままに、くちばし突出、身の丈ひょろひょろと六尺にちかき、かたち老い・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 兵隊の尿の中から、回春の霊薬が析出されるそうであるが、映画で勇ましい軍隊の行進や戦闘の光景を見たり、またオリンピック選手やボクサーの活躍を、見たりしているといじけた年寄り気分がどこかへ吹っ飛んでしまってたとえ一時でも若返った気分になる・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬やかもしかや魚の妙技に肉薄しようという世界じゅうの人間の努力の成果が展開されているのであろう。 機械的文明の発達は人間のこうした・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬や羚羊や魚の妙技に肉薄しようという世界中の人間の努力の成果が展開されているのであろう。 機械的文明の発達は人間のこうした慾望の焔・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・近ごろ見たニュースの中で実におもしろかったのはオリンピック優勝選手のカメラマイクロフォンの前に立ったときのいろいろな表情であった。言葉で現わされない人間の真相が躍然としてスクリーンの上に動いて観客の肺腑に焼き付くのであった。 こういう効・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・アメリカン・レビューにはそういう古典的な意味での音楽などはない代りに、オリンピックのグラウンドや拳闘のリンクに見らるる活力の鼓動と本能の羽搏きのようなものをいくらかでも感ずることが出来るのであった。 それほどにも国々の国民性がこんな演芸・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
日本へオリンピックを招致しようとしたときの雰囲気を思いおこします。日本へよばなければ意地でも承知せぬという気分が示されていたことがきつく印象されています。何の意地によってそのやめられるのでしょうか。はじめにも終りにもある無・・・ 宮本百合子 「オリンピック開催の是非」
・・・それは多分プラーグかでオリンピックのあった時だと思います。まだ健在であった人見絹枝さんが女子選手を引率して行く途中モスクワへよられました。大使館でその歓迎と幸先祝いの晩餐がひらかれ、私も座に連ったのですが、そのとき人見さんは一同を眺めわたし・・・ 宮本百合子 「現実の問題」
出典:青空文庫