・・・ふと、その風が遠くの街道からカチューシャのうたをのせて来た。学生らしい歌いっぷり、その声は段々近づいて来て、また次第に遠く消え去った。それは東京で松井須磨子のカチューシャとともにその頃はやりはじめたばかりの歌であった。それをうたう人は東京か・・・ 宮本百合子 「青春」
トルストイの「復活」という小説がある。小説として世界じゅうのひとによまれているばかりでなく、芝居に脚色されて、日本でもカチューシャとよばれる女主人公の運命は、ひとびとの心にきざまれている。「復活」のもっとも力づよく描き出さ・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・のネフリュードフやカチューシャが写実的にかけていないこと、その点ではむしろバルザックの諸作品の方がすぐれていると、当時の流行にしたがった解釈を来しているのに対し、蔵原は、トルストイが「復活」においては「アンナ・カレーニナ」や「戦争と平和」を・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
帝劇で復活を観た。一九三〇年にモスクワ芸術座で上演された方法で演出された。 つよく印象にのこったこと。 カチューシャに扮した山口淑子は熱演している。各場面ごとに、その場面の範囲内で。このことは、女優としての山口淑子・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・の心を見出そうとしている。ドストイェフスキーの異常な小説の中には、いくたりかの強い特色のある女性の性格が描き出されている。「罪と罰」のソーニアのように。トルストイの「復活」のカチューシャの経歴とそれを通じて語られている彼女の人間としての抗議・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・でさえもカチューシャという女主人公をとおしてブルジョア法律の非人間性を暴露しています。 治安維持法という全く権力擁護の悪法によって血ぬられた立身出世の階段を一段一段と経のぼった人間が人民の正義と自由に対して罪のない者であるということは、・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫