・・・ 若いキネマ製作者たちはカメラをもって、農村へ、炭坑へ、森林の奥へ進出した。 作家、記者は、彼等の手帖が濡れると紫インクで書いたような字になる化学鉛筆とをもって、やっぱり集団農場を中心として新生活のはじめられつつある農村へ、漁場へ、・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・よくカメラとか音楽とか、いわゆる趣味を通じて異性の間が結ばれるけれども、社交性とは違う友情という点からいえば、同じカメラに対するにしても、それに対する一定の態度において、互の評価なり敬意なりが可能であるということが求められるのであると思う。・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・山の岩石の構造の相違やそこを登攀する技術の相違や雪の質、氷河の性質等に就いてカメラがもっと科学的に活用されていたらばあれだけの長さの内容をもっと豊富にし得たであろう。 ソヴェト同盟のシュミット博士一行の極地探険の記録映画は誠に感銘深いも・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 日頃カメラを愛する人々にとっては、今更ヴォルフも知れすぎた物語であろうけれど、番町書房というところから発行されているこの一冊の作品集は、いろいろな感銘で私をうごかした。 ヴォルフのカメラはまるで美感と温さとをもった生きもののようで・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・また、太陽燈浴室が現れるにつれて、児童の弁当の問題、学校で肝油配給をやり、また栄養給食について考慮している、そういう、現実的な部分が全くカメラからとりこぼされている。高輪の小学校でそれは必要ないことであったかもしれないが、日本の小学校と給食・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ライラック色のルバシカに金髪を輝やかした青年と、黒い上着を着て白っぽいハンティングをかぶったもう一人の青年とが、或る日その屋上へ出て来て愉快そうに談笑しながら、小さいカメラを出して互に互の写真をとりあっている。こっちの窓から其光景を遠く眺め・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・笑うような、さてまた不思議がるような表情をカメラに向けているあどけなさ。そのあどけなさにひき入れられて、自分も芝生の上にくつろいで片肱つきながら見とれている若い母親。その母親の笑顔は、赤ちゃんの無邪気さ、愛くるしさにとけ入って、はた目を忘れ・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・芝居より映画の方が移動にも便利だし、現実をそのままカメラに掴みこんで、而も強い芸術的効果があげられるため、ソヴェト映画の主題は、実にひろい。「十月」から「みなさん、歯を磨きなさい!」というところまで拡っている。 映画はソヴェト同盟内各共・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・という題でヴォルフ博士がライカ・カメラで撮った海陸写真集をお送りいたします。 もう涼風が立ってからこのようなものを送るのを御免なさい。私も秋になってからもし事情が許したら少し休養して来るつもりだから。二人のところに、今年の夏の休暇は時お・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ A・Pのカメラが渡米婦人団の写真の中心に赤松常子さんの日本服姿をとらえたところをみると、赤松さんの渡米効果は、この面で成功といえるのだろう。湯川夫人の日本振袖の姿も、ノーベル賞授賞の式場に異国情緒を添えた。 それぞれの国の民族・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
出典:青空文庫