・・・山崎のお母さんは警察に行っても、ガン/\怒鳴らなかったが、自分の云い出したことは一歩も引かなかったし、それを条理の上からジリ/\やって行った。ケイサツでは上田のお母アはちっとも苦手でなかったが、この山崎のお母さんには一目おいていたらしい。山・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・例えば家なき児レミがミリガン夫人に別れを告げて船を下りてから、ヴイタリス老人とちょっと顔を見合せて、そうしてあてのない旅路をふみ出すところなどでも、何でもないようで細かい情趣がにじんでいる。永い旅路と季節の推移を示す短いシーンの系列など、ま・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・気持もはずんでくる。ガンばってみんな売ってゆこうという気になる。「こんちはァ、こんにゃく屋ですが、御用はありませんか」 一二度買ってくれた家はおぼえておいて、台所へいってたずねたりする。 しかし売れないときは、いつまで経っても荷・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・きみのような有能な人物が、熊本にとどまって、ぜひガンばってくれんことにゃ――」 けっきょく三吉は、新婚の二人に夕めしもくわせず、夜ふけまで縁さきにこしかけていた。 二 家のひさし下に、ひよけのむしろをたらして、三・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 枕を高くした本田富次郎氏は、樫の木の閂でいきなり脳天をガンとやられた。 青年団や、消防組が、山を遠巻きにして、犯人を狩り出していた。が、青年団や消防組員は、殆んど小作人許りであった! 勿論、当局が小作人組合に眼を光らさぬ筈がな・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・立派なカンランガンですよ。」ラクシャンの第一子は尚更怒って立派な金粉のどなりをまるで火のようにあげた。「知ってるよ。ヒームカはカンランガンさ。火から生れたさ。それはいいよ。けれどもそんなら、一体いつ、おれたちのようにめざ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 駒込署の高等係は、余り二人の同志が私に会わせろとガン張るのに閉口して留置場まで降りて行ったふりをし、私が「こういう場所では会いたくないから」と云ったと見えすいた嘘をついて到頭追いかえしてしまったのだそうです。私が何とかして会いたいと留置場・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・それが生活の或時期では健康さと芸術に対する野心から次の時期には単純であるが確信に満ちたガンばりからそして最近それは度々の鍛練によって引しまりやきがはいり、ばねはつよく正確になって、落付きしかも一層澄みとおったような爽やかさと・・・ 宮本百合子 「心持について」
・・・「ガンばれ」「うら切るとゲンコだぞ」「皆でカントクを睨みつけろ」等文句を綴って活字の一列はカエシをしている皆の間に、順にまわされた。十一時に終業すると、文選場で一同勢ぞろいをして、カントクのところへ残りの仕事をひっつかんでデモで押しかけた。・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・私はじいっと眼を据えて白い粉雪の飛びかかる四角い処を見て居るうちに段々その四角がひろがって行き、飛び散る白いものも多くなり、それにつれて戸の鳴る音さえ、ガンガーン、ガンガーンと次第に調子をたかめて行って、はてしもなく高く騒々しくなって行く音・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫