・・・小えんはやはり若槻との間に、ギャップのある事を知っていたんだ。「しかし僕も小えんのために、浪花節語りと出来た事を祝福しようとは思っていない。幸福になるか不幸になるか、それはどちらともいわれないだろう。――が、もし不幸になるとすれば、呪わ・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・ つまりは、その風体の汚なさと、彼という人間との間に、大したギャップがないのだ。いわば板についた汚なさだ。公園のベンチの上で浮浪者にまじって野宿していても案外似合うのだ。 そんな彼が戎橋を渡って、心斎橋筋を真直ぐ北へ、三ツ寺筋の角ま・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・引緊った感を起させる、起させぬの別と、人生に触れる、触れぬとの間にゃ大なるギャップが有りゃせんか。私はどうも那様気がするね。触れる云々は形容詞に過ぎんように思う。哲学上の見解から小説と人生との接触を見たんではないらしい。にも係らず其無意味の・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ところが彼らが研究会やなにかでイデオロギー的に獲得した輝かしい未来の社会、両性関係の見とり図と、現実の日常生活との間には、少なからぬギャップがあったであろうことは、たやすく推察することができる。歴史的にも若々しかった彼らのある者は、性急にそ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・出現は、今日の若い読者層が過去の社会科学の文献に通じていず、したがって同氏が論拠とされている、ローザ・ルクセンブルグやトロツキーなどの引用文の、革命理論の誤謬を実際的に批判する能力は持っていないというギャップをねらっています。同氏が利用して・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・治安維持法の犠牲となった作家たちが、転向の動機を、めいめいの個人的性格の問題、インテリゲンチアと勤労大衆との間にある思想的ギャップ――インテリゲンチアの観念性という理由づけで、作品化したことについての疑問を提出したことは誤っていない。それぞ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・家庭の雰囲気と若い男女たちの生活感情との間に見えないギャップがあって、相当の年ごろになった娘や息子は、友達の間では自分を親の家の空気の重さからはぬけた者として感じていたい心をもっている。男の子は自分たちだけ、女の子も自分たちだけ。その点では・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ 現代文学における各作家の社会認識或は社会感覚と各自の創作方法との間には、おおいがたいギャップがある。その歴史的な亀裂の間から、肉体派小説論、中間派小説論が日本小説のフィクション性を主張して湧き出たが、その文学の空虚な実体があきられて、・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ 現代の悲劇というより、むしろ正劇は、個々の性格間の格闘というよりも拡大されて、人間理性の発展にあらわれてきた歴史と歴史のギャップ、相剋という普遍性をもつたたかいの記録に進んで来ている。日本の現代文学は、世界の現実としてのこれら日本の現・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・この不幸なわが文化の特徴が、今日文学と民衆とを切りはなしてしまっているのであるから、作家は、そのギャップを埋め、文化の平衡性を保つために努力しなければならぬとするのが、文化平衡論のあらましである。 引続いて、文学と民衆、文学の大衆化の問・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫