・・・らしい、コルネット、クラリネットのジンタ音楽に交じって花屋敷を案内する声が陽気にきこえていた。警備の巡査、兵士、それから新聞社、保険会社、宗教団体等の慰問隊の自動車、それから、なんの目的とも知れず流れ込むいろいろの人の行きかいを、美しい小春・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・この驚くべき聴感の能力のおかげで、われわれは喧騒の中に会話を取りかわす事ができ、管弦楽の中からセロやクラリネットや任意の楽器の音を拾い出す事ができる。 これに反して目のほうでは白色の中から赤や緑を抜き出す事が不可能であり、画面から汚点を・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ ひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲の練習をしていました。 トランペットは一生けん命歌っています。 ヴァイオリンも二いろ風のように鳴っています。 クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ 楽員たちはわらって顔を見合せてしばらく相談していましたが、「そいじゃね、クラリネットの人しか知ってませんから、クラリネットとね、それから鼓で調子だけとりますから、それでよかったら二節目からついて歌ってください。」 みんなはパチ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・活動写真館の音楽隊は、太鼓、クラリネットを物干しまで持ち出し、下をぞろぞろ通る娘たちを瞰下しつつ、何進行曲か、神様ばかり御承知の曲を晴れた空まで吹きあげた。「きみちゃん、おいでよ、これ」「サア入らっしゃい! 入らっしゃい!」 下・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫