・・・ままよと濡れながら行けばさきへ行く一人の大男身にぼろを纏い肩にはケットの捲き円めたるを担ぎしが手拭もて顔をつつみたり。うれしやかかる雨具もあるものをとわれも見まねに頬冠りをなんしける。秋雨蕭々として虫の音草の底に聞こえ両側の並松一つに暮れて・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ ○自分とT先生との心持 ◎敏感すぎる夫と妻 ◎まつのケット ◎本野子爵夫人の父上にくれた陶器、 ◎常磐木ばかりの庭はつまらない。 ――○―― Aの言葉の力 ◎或こと・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・ こうやってスヤスヤその上で眠っている乳母車にしろ、着ている小さいケットにしろ、わきで楽しそうに赤坊の繕いものをしているいろいろな年頃の母親の自由な、経済的に保証された時間にしろ、みんな個人がただ金の力ずくでとったものではない。職業組合・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・寒い時は、上からケットを被って本を読んでいらっしゃるのでございます。」お上さんは私に座布団を出して、こう云った。「はてな。工面が悪いのかしら。」独言のように私は云った。「そうじゃございません。お泊になってから少し立ちますと、今なら金・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・つくりつけの木の腰掛は、「フランケット」二枚敷きても膚を破らんとす。右左に帆木綿のとばりあり、上下にすじがね引きて、それを帳の端の環にとおしてあけたてす。山路になりてよりは、二頭の馬喘ぎ喘ぎ引くに、軌幅極めて狭き車の震ること甚しく、雨さえ降・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫